ラグビー界の「坊ちゃん」が描く夢 7人制で注目を集める成城大・石塚

向風見也

「自分でも速くなった感覚がある」

成城大では3年生ながら副将。「留年した人以外の4年生が1人しかいなかったので」 【向風見也】

――フジタより速くなる、と。

「本当か、と。でも、ディーンが言うなら間違いないとみんなが言っているので、継続してトレーニングしていきたいです。2月と比べると、自分のなかでも速くなった感覚がありますね」

――五郎丸選手もしかり、比較の対象が大物。

「そういう方たちとプレーできるのはいいことなんで……」

 9月某日、石塚本人が録音機を向けられる。中学、高校とずっと成城学園で楕円球を追ってきた内部進学生だ。富裕層の集う学校出身者特有の大らかさをにじませる。瀬川HCの指摘する「コーチャブル能力」について問われても、この調子だった。
 
「セブンズでジャンパー(キックオフやラインアウトなどで跳躍して捕球する役割)に初挑戦したんですけど、みんなが協力して練習して、分かりやすく教えてくれた。僕というより、周りのおかげでできるようになった感じです」

「五輪とワールドカップを目指したい」

 都内の世界的アパレルブランドショップで「週に1、2回」ほどアルバイトをする。大学でラグビーを続けると決めたのは、高校から内部進学した先輩の視線から「せざるを得なかった」と思ったためだ。俗に言う「エリート」とは違った経歴を経て、いま、「高いレベルでプレーしたい」と決意する。

――SSAで受けた刺激は。

「倒れて寝ている時間を短く、と常に言われていた。あと、特にトップリーガーの方はコミュニケーションを常に意識していた。そのため自分も動きやすかったし、逆に自分がコミュニケーションをとらないと置いていかれる」

――マレーシアセブンズでは、準々決勝のタイ戦で左足首の捻挫。骨のある相手との準決勝、決勝に出られなかった。

「特に(12人の登録選手で1日に複数試合をする)セブンズだと、1人の怪我で交代枠も少なくなる。瀬川HCからは、怪我をしても頑張って次のゲームには戻って来られるようにしろと言われました。まだまだ甘いな、と」

――辛苦を乗り越え、目標は。

「オリンピックとワールドカップ、目指したいですね。合宿に行くといい刺激をもらえる。逆に、ここからチームに戻っていい刺激になれるよう意識したいです」

「坊ちゃん」の物語が始まっている

 私服のパンツや見た目からか「スキニー」、想像される育成歴からか「坊ちゃん」。ついたあだ名はややか細い。ただ、ラグビー選手が「男らしく」あるべきと誰が決めたか。なじみのキャンパスの外で「ポテンシャル」を買われた経済学部の学生は、7人制ではオリンピック、15人制ではワールドカップに、日本代表として挑みたいという。望みは叶うか瀬川HCは語った。

「もっとハングリーなところが出てくれば。チームでも『周りがうまくいかなかったから負けた』ではなく、相手に『あいつ1人にやられた』と思われるように。代表でやったプライドを持って……」

 9月28日、成城大のホームグラウンド。マレーシアセブンズでの怪我からの復帰初戦に臨む。昨季まで対抗戦Aにいた日体大との対抗戦Bの第2戦でフルバックとして先発、3対66で敗れた。「まだまだ甘いな」。腹の底から自覚して、新たな地平を見たい。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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