ノーゴールでは終われないベネズエラ戦 注目はオーガナイザー柴崎のパスワーク

北條聡

ウルグアイ戦は2点を「献上」

ベネズエラ戦でアギーレ監督が起用を明言した柴崎。そのパスワークに注目が集まる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 初陣とは違った色が見えてきそうだ。

 新生日本代表の第2戦である。相手は南米の小国ベネズエラだ。初戦の相手ウルグアイと比べると、総合力では1枚も2枚も劣ると見ていい。新指揮官のハビエル・アギーレはそのあたりをしかと計算に入れて、メンバー構成を含めたゲームプランを組み立てているのではないか。

 ベネズエラ戦の見どころを探る前に、まずはウルグアイ戦のおさらいをしておきたい。スコアは0−2。互いにゴール前での攻防が少なく、チャンスらしいチャンスは数えるほどだった。日本の見せ場と言えば、前半に左からえぐった岡崎慎司のクロスをフリーで合わせた皆川佑介のヘディングシュートと、後半にポストを直撃した武藤嘉紀のミドルシュートくらいか。

 もっとも、南米の強豪ウルグアイは海千山千の試合巧者。タフとラフの境界線を行き来する老かいなディフェンス力は、この国のお家芸でもある。おいそれとゴールを割れるような相手ではないのも確かだろう。反面、絶対エースのルイス・スアレスを欠く攻撃スタッフは、ワールドクラスと呼べるほどの迫力に乏しい。先のブラジル・ワールドカップにおいても、スアレス不在の2試合(コスタリカ戦とコロンビア戦)は拙攻がたたり、敗れている。

 日本にとってはノーゴール以上に2つの失点が悔やまれるところか。いずれも「個人のミス」によるものだ。1失点目は左センターバック(CB)を務めた代表初スタメンの坂井達弥がバックパスの処理を誤り、そこをウルグアイの攻撃陣に付け込まれた。さらに2失点目は酒井宏が相手のクロスをゴール正面へクリアする初歩的なミス。これを、抜け目なく拾われての失点だった。

 まさに、2点を「献上」した格好だ。もっとも、守備の組織を崩されたわけではない、というポジティブな見方もできるだろう。また、坂井にしても酒井宏にしてもミスを引きずることなく戦った点は、スタッフに好印象を与えたかもしれない。不用意なミスが命取りになる国際試合の厳しさを、テストマッチで味わえたのは不幸中の幸い、と言っていい。

アンカー森重に込められた二重の意味

アンカーで出場した森重。そこには「守備の強化」と「攻撃の変化」という二重の意味が込められている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 チーム全体の話に踏み込めば、当然ながら攻守に課題が残る。攻撃の局面においては受け手が後方から球を引き出せず、ビルドアップが遅くなり、相手に守備ブロックを固められ、崩しのアイデアも乏しかった。また、守備の局面においてはプレッシングの連動性にバラツキがあったのも事実。もっとも、わずか数日間のトレーニングで、しかも数人の「新顔」を含めて試合に臨んでいたことを思えば、新システムの消化具合は悪くはない。

 新システムとは、4−3−3のフォーメーションをベースにした可変型システムのことだ。攻撃に転じた際、3バック(3−4−3、3−2−4−1)へシフトする。3人で構成する中盤の一角(アンカー)が最後尾に落ちると同時に2人のCBがワイドに広がり、左右のサイドバック(SB)を高い位置へと押し出していく。これに伴い、3トップの両サイドが中央へ絞り、1トップと距離を詰めて、シャドー(第2ストライカー)に転じるわけだ。

 アギーレの妙案はキーロールのアンカーに本来はCBの森重真人を据えたことだろう。そこには「守備の強化」と「攻撃の変化」という二重の意味が込められている。前でつぶし、後ろでさばく。守備力と配球力を違和感なく両立させる森重の姿は、長くメキシコ代表で同じような役割を担ってきた名リベロ、ラファエル・マルケスを連想させるものだ。アギーレの代表における森重は、言わば『和製マルケス』だろう。

 ウルグアイ戦において、森重の鋭い縦パスから攻撃のスイッチが入る場面が何度かあった。両サイドに蹴り分けるロングパスも従来の日本代表には少なかった武器であり、幅を生かすと同時に、攻撃の局面を加速させるメリットをもたらすことになるのではないか。森重自身も、ウルグアイ戦の出来に関して、それなりの手応えをつかんでいるはずだ。

 左右のサイドバックを担った長友佑都と酒井宏の攻め上がりがやや鈍かったものの、森重を軸にした新システムの「第一印象」は悪くない。さらに収穫を探せば、アギーレ代表の肝となるハードワークだろう。よく走り、よく競い、よく闘う――。球際の争いを含め、攻守の両面にわたってハードワークを実践している。総じて積極的だった個々の取り組みは、何よりも『闘う姿勢』を求めるアギーレを喜ばせるものだったのではないか。

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著者プロフィール

週刊サッカーマガジン元編集長。早大卒。J元年の93年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。以来、サッカー畑一筋。昨年10月末に退社し、現在はフリーランス。著書に『サカマガイズム』、名波浩氏との共著に『正しいバルサの目指し方』(以上、ベースボール・マガジン社)、二宮寿朗氏との共著に『勝つ準備』(実業之日本社)がある。

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