錦織圭、勝敗分けるサーブ攻略と平常心=全米オープン決勝見どころ
〈ビッグ4〉不在の4大大会決勝は9年ぶり
錦織がグランドスラム初Vを懸けて、決勝でチリッチと対戦する 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
本人がよく引き合いに出すのが、2010年の全米オープン2回戦だ。錦織は猛暑の中で5時間に及ぶ激闘を勝ち切ったものの、翌日、左脚の付け根などに激しい痛みが出て歩けないほどの状態に陥った。結局3回戦は途中棄権。あの試合には、勝ったと同時に負けたのだ。その5時間を戦った相手が、決勝を戦うマリン・チリッチ(クロアチア)である。
当時の錦織は20歳、チリッチは21歳。チリッチはその年、すでにトップ10入りを果たしており、ジュニア・ナンバーワンだった時代から変わらず「将来の王者候補」の一人に数えられていた。一方の錦織は、ひじの故障による1年間のブランクを経て、当時はまだ復活途上の147位だったが、18歳のときのセンセーショナルなツアー優勝以来、この世代のけん引者として注目されてきた存在。将来のテニス界を担う期待の若者らの対決だった。
4年後、その二人が同じ全米オープンの決勝を戦うのだ。しかも、テニス界にとって重大な意味のある決勝を――。
グランドスラムの決勝に〈ビッグ4〉が誰も残らなかったのは、05年の全豪オープン以来である。ビッグ4の説明はもう不要だろうか。ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ジョコビッチ、アンディ・マレー(イギリス)の4人のことである。今年のウィンブルドンではグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)と、4回戦で錦織を破ったミロシュ・ラオニッチ(カナダ)が初のグランドスラム・ベスト4入りを果たしたが、ディミトロフはジョコビッチに、ラオニッチはフェデラーに敗れ、いずれも決勝進出はならなかった。偉大な〈ビッグ4〉が、まだ世代交代は許さないとばかりに新勢力の前に立ちはだかった。だがラオニッチとディミトロフの躍進が、錦織やチリッチを含め、ポスト世代を奮い立たせたことは間違いない。こうして、鉄の扉も少しずつこじ開けられていくのだ。
今大会で覚醒したチリッチ
世界6位のラオニッチ、4位スタン・ワウリンカ(スイス)、1位ジョコビッチとトップ10を3人倒してきた錦織の軌跡は文句なしだが、チリッチも7位のトマシュ・ベルディヒ(チェコ)、3位のフェデラーを倒してきている。いずれもストレートセット、フェデラーから6戦目にして初勝利という点などに、今大会のチリッチの覚醒ぶりがうかがえる。
昨年、ドーピング違反による出場停止の処分を受け、全米オープンにも出場できなかったチリッチには、ハングリー精神が培われたようだ。テニスができる喜びも感じている。こういう精神状態の選手は手強い。