錦織圭、勝敗分けるサーブ攻略と平常心=全米オープン決勝見どころ

山口奈緒美

〈ビッグ4〉不在の4大大会決勝は9年ぶり

錦織がグランドスラム初Vを懸けて、決勝でチリッチと対戦する 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 8日(日本時間9日)、全米オープンが最終日を迎える。15日間の戦いのフィナーレは男子シングルス決勝。錦織圭(日清食品)にとっての、初のグランドスラム決勝の舞台である。4時間超えのフルセットを2試合続けて勝ち、35度を超す蒸し暑さの中で3時間近く王者ノバック・ジョコビッチ(セルビア)と激しく打ち合い、それを制した。今、世界を驚かせている錦織は、「自分でも、なんかおかしいんじゃないかと思ってます」と言って照れ笑いしたが、体が強くなっている実感は確かにある。

 本人がよく引き合いに出すのが、2010年の全米オープン2回戦だ。錦織は猛暑の中で5時間に及ぶ激闘を勝ち切ったものの、翌日、左脚の付け根などに激しい痛みが出て歩けないほどの状態に陥った。結局3回戦は途中棄権。あの試合には、勝ったと同時に負けたのだ。その5時間を戦った相手が、決勝を戦うマリン・チリッチ(クロアチア)である。

 当時の錦織は20歳、チリッチは21歳。チリッチはその年、すでにトップ10入りを果たしており、ジュニア・ナンバーワンだった時代から変わらず「将来の王者候補」の一人に数えられていた。一方の錦織は、ひじの故障による1年間のブランクを経て、当時はまだ復活途上の147位だったが、18歳のときのセンセーショナルなツアー優勝以来、この世代のけん引者として注目されてきた存在。将来のテニス界を担う期待の若者らの対決だった。

 4年後、その二人が同じ全米オープンの決勝を戦うのだ。しかも、テニス界にとって重大な意味のある決勝を――。

 グランドスラムの決勝に〈ビッグ4〉が誰も残らなかったのは、05年の全豪オープン以来である。ビッグ4の説明はもう不要だろうか。ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ジョコビッチ、アンディ・マレー(イギリス)の4人のことである。今年のウィンブルドンではグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)と、4回戦で錦織を破ったミロシュ・ラオニッチ(カナダ)が初のグランドスラム・ベスト4入りを果たしたが、ディミトロフはジョコビッチに、ラオニッチはフェデラーに敗れ、いずれも決勝進出はならなかった。偉大な〈ビッグ4〉が、まだ世代交代は許さないとばかりに新勢力の前に立ちはだかった。だがラオニッチとディミトロフの躍進が、錦織やチリッチを含め、ポスト世代を奮い立たせたことは間違いない。こうして、鉄の扉も少しずつこじ開けられていくのだ。

今大会で覚醒したチリッチ

 2人の対戦成績は5勝2敗で錦織がリードしている。10年の全米オープンの2年後、全米の3回戦でまた対戦し、今度はチリッチが勝った。グランドスラムでの対決はこの2回だけ、つまり1勝1敗の五分だ。

 世界6位のラオニッチ、4位スタン・ワウリンカ(スイス)、1位ジョコビッチとトップ10を3人倒してきた錦織の軌跡は文句なしだが、チリッチも7位のトマシュ・ベルディヒ(チェコ)、3位のフェデラーを倒してきている。いずれもストレートセット、フェデラーから6戦目にして初勝利という点などに、今大会のチリッチの覚醒ぶりがうかがえる。

 昨年、ドーピング違反による出場停止の処分を受け、全米オープンにも出場できなかったチリッチには、ハングリー精神が培われたようだ。テニスができる喜びも感じている。こういう精神状態の選手は手強い。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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