錦織圭、勝敗分けるサーブ攻略と平常心=全米オープン決勝見どころ

山口奈緒美

錦織が優勝するためのカギ

チリッチ(写真)の武器であるサーブを 錦織はどう攻略するか 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 技術面でいうと、チリッチの武器はサーブ。「人生最高の試合」と自己評価したフェデラーとの準決勝では、フェデラーを上回る13本のエースを放った。特筆すべきはファーストサーブが入ったときのポイント獲得率の高さで、87%をポイントにつなげている。これで、ファーストサーブを高確率で入れてこられるとかなり厳しい。

 だが、錦織はツアー屈指の天才レシーバー。サーブのコースを読み、ビッグサーブに対しても試合が進むにつれて反応が良くなっていく。そんな錦織がチリッチのサーブをどう攻略するかが見どころの一つ。鉄壁のジョコビッチにすら負けなかった錦織のこと、ラリー戦になれば、必ずやゲームを優位に進めるだろう。

 あとは、グランドスラム初の決勝の舞台で平常心を保てるかどうか。ジョコビッチは20歳のときの全米オープンでグランドスラム初の決勝進出を果たしたが、フェデラーに敗れ、「グランドスラムの決勝には想像を絶するプレッシャーと緊張感があった」と振り返ったことをよく覚えている。

 今回、錦織が準決勝のあと、「グランドスラムの決勝という実感がまだない。マスターズシリーズの決勝を経験しているからかもしれない」と言っていたのは印象的だ。この平常心によって、初めてのグランドスラム準決勝でギアをさらに上げることができたのだろう。
 だが、決勝はどうだろうか。2万3000人収容のスタジアムがどこまで埋まるか分からないが、その圧倒的な雰囲気にのまれないで戦えるか。逆に、ギアはまだ上がるかもしれない。これはもちろん、チリッチにも言えることで、両者の立場は同じなのだが……。

3人目の“新チャンピオン”誕生へ

 それぞれのコーチがどんなアドバイスを授け、どのように送り出すのかも興味深い。錦織のコーチに、全仏オープン覇者のマイケル・チャンがついていることはすっかり日本でも有名だろうが、チリッチのコーチも、今年、テニス界で話題の〈セレブコーチ〉のひとり、ウィンブルドン・チャンピオンのゴラン・イワニセビッチである。ワイルドでハンサムだったイワニセビッチは、チャンに負けず日本で人気があった。
 ともに42歳。17歳のときの全仏オープンで、グランドスラム初の決勝進出にして栄冠を手にしたチャンに対し、イバニセビッチはウィンブルドンの決勝で3度負け続け、29歳のときにようやく悲願のタイトルをつかんだ。両者の異なる経験は、もしかするとこの試合に大きな影響を与えるかもしれない。

 この10年間のグランドスラムで生まれた〈ビッグ4〉以外の新チャンピオンは、09年全米オープンのフアン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)と今年の全豪オープンのワウリンカの2人しかいない。3人目は錦織か、それともチリッチか。いずれにしても、この初々しいファイナルがそれ自体、グランドスラムにおける歴史的一幕であると同時に、新勢力のさらなる高まりを促す出来事になることは間違いない。

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著者プロフィール

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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