世界に誇るコンテンツへと変貌したMLS カカ、ビジャ、ランパードら大物が参戦

池田敏明

あらゆる意味で魅力的な戦場に

カカ(写真)、ビジャ、ランパードら大物が参戦するMLS。近年はキャリアの晩年を迎えつつあるスター選手が米国に移籍するケースが増えている 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 2013−14シーズン終了直後、ヨーロッパのサッカーシーンを彩ったスター選手たちが大きな決断を下した。カカがミランとの契約を解除してオーランド・シティSCに、ダビド・ビジャがアトレティコ・マドリーからニューヨーク・シティFCに、それぞれ移籍することになった。また、ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会終了後の7月24日には、チェルシーとの契約が満了していたフランク・ランパードもニューヨーク・Cに移籍すると発表した。

 移籍先はいずれも耳慣れないチームだが、それもそのはず。両方とも、15年シーズンから米国のメジャーリーグサッカー(MLS)に新規参入する真新しいチームである。MLSは05年からエクスパンション(チーム数増加)を進めており、15年にはこの2チームが、17年にはアトランタを本拠地とする新クラブが参加する。現役を引退したばかりのデイビッド・ベッカムが経営陣に名を連ねるチームも、マイアミを本拠に近々、参戦する予定となっている。

 クラブ数増加の背景も手伝い、近年、カカやビジャ、ランパードらのように、キャリアの晩年に突入しつつある選手がMLSに移籍するケースが増えている。この原稿を執筆している時点では具体的な動きは見えていないものの、ロビーニョ(ミラン)やシャビ(バルセロナ)にもMLS移籍のうわさがある。かつてはローカルリーグに過ぎなかったMLSだが、今ではあらゆる意味で魅力的な戦場となっているのだ。

一流プレーヤー獲得を可能にした特別指定選手制度

スター流入のきっかけを作ったのがベッカムだ。今では多くの魅力が伴う戦場になっている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 スター選手のMLSへの流出は、07年にスタートした。MLSは本来、サラリーキャップ制を導入しており、各クラブの年俸総額は200万ドル(約2億円)、一選手あたりの年俸は最高40万ドル(約4000万円)に制限されていた。しかしこの年、特別指定選手制度というものが採用される。これは各クラブ2人に限り(トレードによって最大3人まで)、サラリーキャップの範囲外で年俸を設定した選手を獲得できる制度で、これによって原理上、一流プレーヤーの獲得が可能になった。

 この特別指定選手制度の適用第一号となったのが、レアル・マドリーからLAギャラクシーに移籍したベッカム。正真正銘のスーパースターがMLSでプレーすることとなったのだ。契約は5年間で、年俸はMLSでは破格の650万ドル(約6億6000万円)。これに広告収入などが加わり、5年総額2億5000万ドル(約257億円)という超大型契約が実現した。ベッカムにとってはレアル・マドリー時代に匹敵する高額の収入が約束され、LAギャラクシーにとってはユニホームの売り上げや観客数アップなどで収入の大幅アップが見込める。両者にとって“おいしい”契約だったと言えるだろう。

スター流入のきっかけを作ったベッカム

 ベッカムの移籍を機に、MLSにはヨーロッパで活躍した大物が次々に流入するようになった。10年にはティエリ・アンリとラファエル・マルケスが、いずれもバルセロナからニューヨーク・レッドブルズに移籍。11年にはLAギャラクシーがトッテナムからロビー・キーンを獲得した。レッドブルズはアンリ、マルケスの加入を機に1試合平均の観客数が6000人も増え、同年のレギュラーシーズンでは東カンファレンスの1位になった。また、LAギャラクシーにとって、キーンはベッカム、ランドン・ドノバンに続く3人目の特別指定選手となり、実際のピッチ上でもこの3人が抜群のコンビネーションを見せてチームをけん引していた。両方とも、特別指定選手制度の効果が如実に表れたチームだったと言えるだろう。

 その他にも、12年にはティム・ケーヒルがレッドブルズと、13年にはオバフェミ・マルティンスがシアトル・サウンダーズと、14年にはジャーメイン・デフォーがトロントFCと、それぞれ特別指定選手契約を結んでおり、いずれも数億円の年俸を得ている。ドノバンやマイケル・ブラッドリー(トロントFC)、クリント・デンプシー(シアトル・サウンダーズ)といった米国代表の主力選手も、現在は特別指定選手としてMLSで活躍している。ヨーロッパのトップ選手がMLSに移籍するのは今やポピュラーな流れとなっており、それが今回のカカ、ビジャ、ランパードの移籍につながったと言えるだろう。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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