アギーレ就任に尽きない不安要素 ザッケローニの後任として適任なのか?

池田敏明

国際舞台での実績は十分だが……

日本代表監督就任に合意したハビエル・アギーレ氏。メキシコやスペインのクラブチームを率いて豊富な実績と経験を持つ 【写真:ロイター/アフロ】

 24日、日本サッカー協会は、新たな日本代表監督としてメキシコ人のハビエル・アギーレ氏と合意に達したことを発表した。過去にも候補者として名前が挙がったことがあり、今回はワールドカップ(W杯)ブラジル大会の期間中に就任のうわさが浮上。他の具体名がほとんど挙がらず、就任は既定路線と言われていただけに、驚きの人選ではなかった。母国メキシコやスペインのクラブチームでの長きにわたる指導歴を持ち、メキシコ代表を率いて臨んだ2002年の日韓大会、10年南アフリカ大会では、いずれも決勝トーナメント進出を果たしている。

 ブラジル大会ではアルベルト・ザッケローニ前監督が国際舞台での経験不足を露呈しており、日本サッカー協会側がW杯での豊富な実績と経験を有する指揮官を望んでいただけに、その点では申し分のない存在のように思える。スペイン人のGKコーチなど脇を固めるスタッフも決まり、4年後のW杯ロシア大会に向けてアギーレ体制で新たなスタートが切られることとなった。

 何度も論じられてきたことだが、メキシコのパスサッカーは日本が模範とすべきスタイルだと言われている。体格的に似通っており、アジリティー(敏しょう性)とテクニックを生かしてパスをつなぐスタイルは、確かに日本が目指すべきものだ。また、スペインの“ティキ・タカ(ショートパスを細かくつなぐスタイル)”も、日本にとって理想的なスタイルの一つだろう。アギーレはこの2つの国で指導者としてのキャリアを積み上げてきただけに、ポゼッションを基盤に置く攻撃的なサッカーに精通しているような印象を受ける。しかし、彼がザッケローニの下で追求してきたスタイルをさらに高められる指揮官かと問われれば疑問符をつけざるを得ず、いくつかの不安要素も見え隠れする。

カウンターに欠かせない、信頼の置けるCF

 アギーレが指導者としての名声を一気に高めたのは、02年から06年まで指揮を執ったスペインのオサスナ時代だ。最初の3シーズンは2桁順位で降格を回避するのが精いっぱいの状況だったが、05−06シーズンには快進撃を続けて4位でフィニッシュ。チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得という快挙を成し遂げた。その後、本人はアトレティコ・マドリーへとステップアップを果たし、メキシコ代表、サラゴサを経て、12−13シーズンからは2季にわたってエスパニョールを率いた。アトレティコ・マドリーでもCL出場権を獲得し、サラゴサでは降格が確実視されていたチームを奇跡的な残留に導くなど、限られた持ち駒をフルに活用し、チームに安定をもたらす手腕には定評がある。

 オサスナやアトレティコ・マドリー、エスパニョールといったクラブに共通するのは、堅守速攻スタイルが伝統だという点。そしてアギーレ自身も、ソリッドな守備をベースにしたカウンタースタイルの構築を得意としている。自陣で守備ブロックを形成して相手の攻撃を跳ね返し、奪ったボールは一気に前線へと展開してFW陣が勝負を挑むスタイルだ。本人が日本代表でも同じやり方を踏襲するのであれば、ザッケローニ時代とは真逆のアプローチでチームを作ることになる。果敢に得点を奪いに行くのではなく、まずは失点しないこと、負けないことを念頭に置いた現実的な戦い方になると考えられる。

 ただし、彼のカウンター戦術を機能させるためには、信頼の置けるセンターFW(CF)が必要になる。オサスナ時代はサボ・ミロシェビッチ、アトレティコ・マドリーではディエゴ・フォルランとセルヒオ・アグエロ、エスパニョールではセルヒオ・ガルシアがポイントゲッターの役割を担った。個の力でゴールを奪える屈強なストライカーが不可欠なのだが、今の日本でそのようなタイプのFWを見いだすのは難しい。果たして、アギーレは誰にその役割を担わせるのか。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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