アギーレ就任に尽きない不安要素 ザッケローニの後任として適任なのか?

池田敏明

うのみにできないW杯の実績

W杯ではメキシコ代表を率いて2度ベスト16入りを果たすなど実績を残しているが、戦術や振る舞いなどに不安は尽きない 【写真:ロイター/アフロ】

 02年、10年のW杯でベスト16入りを果たしたという実績についても、うのみにするわけにはいかない。メキシコは94年米国大会以降、ブラジル大会まで6大会連続で決勝トーナメントに進出している。また、招待国として参加したコパ・アメリカ(南米選手権)2007での3位入賞、12年ロンドン五輪での金メダル獲得など、ビッグトーナメントでは高い確率で勝負強さを発揮する。つまり、メキシコにとってW杯でのベスト16入りは、そう難しいことではないのだ。

 確かにアギーレの場合、02年大会、10年大会ともに予選途中で代表チームの指揮権を委ねられ、不振に陥っていたチームを立て直して本大会出場に導いた。選手に戦う姿勢を植えつけ、勝負強さを発揮させるモチベーターとしての手腕は備えているが、面白みには欠ける。同じメキシコ代表でも、リカルド・ラ・ボルペが率いた06年ドイツ大会のチームはハイプレスや複雑なポジションチェンジを駆使した厚みのある攻撃などが印象的で、ミゲル・エレーラ監督が率いた14年ブラジル大会のチームも、ブラジルやオランダといった強豪と互角以上の戦いを演じており、可能性を感じさせた。

 一方でアギーレのチームは、02年大会、10年大会ともに印象が薄く、ベスト8以上に進める可能性は低かった。最低限のノルマは達成できるが、そこからの上積みはなかなか望めないというのが今までのアギーレのチームだ。

品位に欠ける振る舞いに不安も

 代表監督としての品位に欠ける点も不安要素だ。ストレートな物言いで報道陣と衝突するのは日常茶飯事で、自身が要求する戦術を実践できない選手は容赦なく切り捨てる。南アフリカ大会では、主力と見られていたGKギジェルモ・オチョア、FWハビエル・エルナンデスを先発で起用せず、試合のたびにゲームキャプテンを変えるという不可解な采配を見せて母国のファンやマスコミから大きな批判を浴びた。極めつけは09年のCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)ゴールドカップ、対パナマ戦で見せた相手選手へのキックだ。前半から両チームに退場者が出るなど荒れ模様の試合だったが、そんな時こそ冷静であるべき代表監督が相手選手を蹴りつけて退席処分になるなど前代未聞だ。

 不安要素は尽きないが、アギーレが代表レベル、クラブレベルのいずれにおいても実績を残しているのは紛れもない事実。今回、日本以外の国からも代表監督就任の打診を受けているように、各方面から高い評価を得ている。その豊富な経験を生かし、どんな相手に対しても戦う姿勢を示せるチームを作り上げてくれることに期待したい。くれぐれもピッチ外で騒動を巻き起こし、選手たちがプレーに集中できない環境を作り出してしまうことだけは避けてほしいものだ。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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