米国代表が見せた粘り強さの秘密 監督が呼び覚ました“フロンティア精神”
過酷なスケジュールの中、GLを突破
延長後半2分、途中交代で入ったグリーン(右)が得点しベルギーに迫ったが、あと一歩届かなかった 【写真:ロイター/アフロ】
ガーナ戦ではエースストライカーのジョジー・アルティドールが前半途中に負傷し、続くポルトガル戦は夜のキックオフだったにもかかわらず気温30度、湿度66パーセントという蒸し暑さの中での試合、そしてドイツ戦は降りしきる激しい雨の中での試合を強いられ、心身両面における疲弊の蓄積は生半可なものではなかった。
それだけの厳しい条件が重なる中、米国は3大会連続の対戦となった宿敵ガーナを下し(2−1)、ポルトガル戦では後半ロスタイムに同点ゴールを許す悔しい展開ながら勝ち点1を獲得(2−2)。ユルゲン・クリンスマン監督との因縁が深いドイツとの雨中決戦は最少失点で乗り切り(0−1)、グループ2位で決勝トーナメント進出を果たした。過酷な戦いを乗り切るために彼らは万全の準備を進めており、それが結実する形となった。
ドノバン落選で動揺も親善試合で自信を深める
キャンプ地から遠く離れた場所で試合を行ったのは、スポンサーの意向もあるだろうが、ブラジルでの長距離移動を想定したものだったに違いない。そしてアゼルバイジャンを仮想ドイツ、トルコを仮想ポルトガル、ナイジェリアを仮想ガーナに見立て、移動の感覚を体に染み込ませつつ、どのように戦えばいいかを入念に分析していった。
テストマッチに挑む直前、代表の選手たちは激震に見舞われている。クリンスマン監督は5月22日に23人の最終メンバーを発表したのだが、その中に米国代表の歴代最多得点記録を保持し、4大会連続のW杯出場が確実視されていた“リビング・レジェンド”ランドン・ドノバンの名前がなかったのだ。
「ブラジルでの戦いを想定した時、他の選手がランドンよりも上位にあった」と指揮官は落選の理由を語ったが、これまでドノバンに導かれるように戦ってきた選手たちは激しく動揺したはず。以前からクリンスマン監督とドノバンの不仲説もささやかれていたため、ともすればチームが空中分解する危険性もあった。
その中で行われたテストマッチで、米国は3連勝を飾った。トルコ戦では指揮官の勧めでドイツから国籍変更を行い、“秘蔵っ子”的な存在である右サイドバック(SB)のファビアン・ジョンソンやキャプテンのクリント・デンプシーがゴールを挙げ、ナイジェリア戦では長らく不振にあえいでいたアルティドールが2ゴールを奪った。
上々の内容と結果を得たことによってドノバンのショックは払拭(ふっしょく)され、選手たちは自信と結束力を高め、万全の状態でブラジル入りすることができた。これがグループステージでの粘り強いパフォーマンスにつながったと考えられる。