王者撃破…ビエルサ信奉者が世界を驚かす チリのサンパオリ監督が練った対策

池田敏明

絶対王者に引導を渡したチリ

先制点を決めたバルガス。現在のチリを象徴するような選手だ 【写真:ロイター/アフロ】

 さまざまな出来事が起こった“聖地”マラカナンで、また1つ新たな歴史が紡がれることとなった。

 スペイン、王座陥落――。ユーロ(欧州選手権)2008、2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)、ユーロ2012と、主要3大会で頂点に君臨してきた絶対王者の時代が、ついに終わりを迎えた。

 引導を渡したのは、W杯南米予選3位で本大会出場を決めたチリ。全盛期のスペインを彷彿(ほうふつ)とさせる強烈なパスサッカーでスペインをグループリーグ敗退に追い込み、自らは決勝トーナメントへの切符を手に入れた。ゴールを決めたのはエドゥアルド・バルガスとチャルレス・アランギスの2人。アレクシス・サンチェスやアルトゥーロ・ビダルといった、欧州のビッグクラブでプレーするスター選手がいる中で、彼らはある意味、現在のチリを象徴する選手と言える。

 チリとスペインは、南アフリカ大会でもグループリーグで対戦している。この時は37分にチリが退場者を出したこともあってスペインが2−1で勝利を収めたが、それまでは互角の戦いを繰り広げた。11対11の戦いが最後まで続けば、あるいは今回と同じ結果が得られていたかもしれない。

 当時と今大会のチリを比較すると、指揮官がマルセロ・ビエルサからホルヘ・サンパオリへと代わっている。しかし、超攻撃的サッカーを標榜する点やハイプレス、ポゼッション、ハードワークといったプレースタイルは共通している。その理由は単純明快で、サンパオリがビエルサの信奉者だからだ。

ビエルサの意志を継ぐ超攻撃的サッカー

 日本ではさほど知名度が高くないサンパオリだが、チリでは絶大な人気を誇っている。プロ選手としてのキャリアがなく、指導者への転身後もペルーやエクアドル、チリの中堅クラブで指揮を執るだけだったが、10年12月のウニベルシダ・デ・チリの監督就任が転機となった。「世界一の指揮官」と公言するビエルサに通じる超攻撃的サッカーをチームに根付かせ、国内リーグ3季連続優勝、11年のコパ・スダメリカーナ無敗優勝と、数々のタイトルをもたらしたのである。これらの実績が評価され、12年12月に解任されたクラウディオ・ボルギの後釜としてチリ代表監督に就任することとなった。

 チリを南アフリカW杯出場へと導き、同国の国民から神のように崇められるビエルサからチームを引き継いだボルギは、そのスタイルまで継承することはできず、ブラジルを目指すチームは南米予選で3連敗を喫するなど混乱に陥っていた。人々がビエルサ時代への回帰を求めていた状況を考えると、サンパオリ以上に最適な人材はいなかった。彼は選手たちにビエルサ時代のサッカーを思い出させて瞬く間にチームを立て直し、2大会連続のW杯出場権をもたらした。

 迎えた本大会でも初戦でオーストラリアを3−1で破り、万全の状態で王者スペインとの一戦に挑むこととなった。直前の試合でオランダがオーストラリアを破ったため、この試合に勝てば自分たちの決勝トーナメント進出とスペインの敗退が決まる。チリにとっては、世界中にその実力を知らしめる絶好の機会となった。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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