川田「想像できない」ハープスターの本気=桜花賞直前スペシャルインタビュー

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不動の本命として桜花賞を迎える女王候補ハープスター、主戦の川田に勝算を聞いた 【netkeiba.com】

 怪物牝馬ハープスターがいよいよ頂点を狙いにいく。阪神ジュベナイルFでのまさかの2着から3カ月、チューリップ賞では他馬が止まっているかの如く末脚を繰り出し、桜花賞不動の一強を決定付けた。それでも、「まったく本気で走っていない」とは川田将雅。彼にとってもこの春は、桜花賞のハープスター、皐月賞のトゥザワールドと、最有力馬への騎乗が続く正念場である。パートナーたちとの軌跡とそれぞれの勝算、そして自身の“今”について、川田の激白をお届けする。(取材・文/不破由妃子)

“ブレない気持ち”が導いた境地

 昨年3月、引退直後の安藤勝己がこんなことを言っていた。

「今、一番追ってくるジョッキーといえば川田。これからの彼に必要なのは、いい馬との出会いだろう。そういう出会いがひとつあれば、彼はグッと伸びてくると思う」

 はたして安藤の言葉通り、今、川田将雅は飛躍のときを迎えようとしている。桜花賞のハープスター、皐月賞のトゥザワールドと、最有力馬への騎乗が続く2014年春。毎週GIで有力馬を任されるようなジョッキーになりたい──確固たる信念のもと、地道に一歩一歩階段を上ってきた川田にとって、待ちに待った春である。

「年が明けてからというもの、チューリップ賞と弥生賞の週が楽しみで楽しみで仕方がありませんでした。本当に待ち遠しかったんですよ。そこに向かうまでの過程も、すごく楽しくて。どちらも無事に終えることができて、本当に良かった」

 そうトライアルまでの過程を振り返った川田は、桜花賞を10日後に控えたこの取材時も、緊張どころか、どこか余裕さえ感じさせた。もちろん、パートナーへの強い信頼があってこそだが、そもそも川田というジョッキーは、デビュー当時から一貫して“ブレない気持ち”を持ち続けているジョッキーであり、それこそが今の川田を作り上げたすべてといっていい。

「ジョッキーになったからには、一番にならなければ意味がない」

 彼からそんな言葉を聞いたのは、確か3年目の春先だったように記憶している。それも、“野望”や“夢”といったどこかふわりとしたものではなく、そのために今、自分に必要なものは何か、その過程として、今は何を目標に乗るべきかということを、当時から頭の中にきちんと描けていたように思う。

 今年で11年目を迎えた川田だが、その思いやヴィジョンにブレが生じたことは、少なくとも筆者が知る限り一度もない。全国リーディングのトップに立っていることも、GIで有力馬への騎乗が続くことも、川田にとっては決して降って湧いた状況ではなく、時間をかけて虎視眈々と狙っていた境地。だからこそ今、彼を支配するのは、緊張よりも静かな興奮なのだろうと推測する。

「暮れ(阪神ジュベナイルF2着)のこともありますから、今度こそ結果を出さなければいけない、結果を出して当たり前の立場だということは自分でもよくわかっています。だからこそ、本番までに自分がどう変化をしていくのか、自分でも楽しみにしているんですが、今のところはなにも変わりません。至って穏やかな毎日です(笑)」

乗り替わりも覚悟した手痛い敗戦

新馬戦は“何があっても負けない”自信があったという 【netkeiba.com】

 08年の皐月賞をキャプテントゥーレで、10年の菊花賞をビッグウィークで、12年のオークスをジェンティルドンナで制している川田だが、新馬から一貫して手綱を任された馬でのGI挑戦は驚くほどに少なく、キャリア丸10年のなかでわずかに3頭。そのうち2頭は、昨年の阪神ジュベナイルFのハープスターと朝日杯フューチュリティSのアトム(5着)であり、いうまでもなく、ごく最近のレースだ。なかでもハープスターは、単勝オッズ1.7倍という圧倒的な支持を受けてのもの。“勝って当たり前”という評価の馬で臨むGIは、川田にとって初めての舞台であった。その阪神ジュベナイルFは2着。まずはこのレースから振り返る。

「新馬からひとつひとつ、ともに積み重ねて迎えるGIというのは初めてでした。これは、ひとえに僕の経験不足が招いた結果です。直線の進路についても先生に叱られましたし、当然、乗り替わりも覚悟しました。幸い、引き続き乗せていただけることになりましたが、あのハナ差負けはもう取り戻せないもの。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。自分自身も、ああいう思いは二度としたくない」

 昨夏、新潟2歳Sを快勝したハープスターは、暮れのGIに狙いを定めて放牧に出された。10月後半に帰厩したのだが、そのときの馬体は前走比プラス30キロ以上。当日は前走比プラス2キロの476キロまで戻してきたものの、管理する松田博資調教師も「帰厩時はさすがにしんどいと思った……」と後に吐露したように、仕上げの過程で誤算が生じたのは間違いない。レース当日も冬毛が目立ち、決して万全の状態とはいえなかったのが正直なところだろう。逆に言えば、それでいてハナ差の2着。マークした上がりも1位タイとなる33秒6の鋭さで、レースのそれを実に2秒近く上回るものだった。

 しかし、川田いわく「直線は全然動いてくれませんでした」。4角14番手からハナ差まで詰め寄りながらも、「動いていない」とはいったいどういうことなのか。

「時計的に見れば、新潟2歳Sのときは32秒台、阪神ジュベナイルFとチューリップ賞では33秒台で上がってきていますが、乗っている人間の感覚としては、本当に動いていないんです。ほかの馬と比べると、ものすごく加速しているように見えると思いますが、ほんの少しだけ進んでいるという感じなんです」

 直線で狭いところに押し込められながらも、馬群を一気に割ってきた新馬戦、4角最後方という絶望的ともいえる位置から、最後は3馬身も後続をちぎり捨てた新潟2歳S、そして先述した阪神ジュベナイルFも、大外を豪快に突き抜けたチューリップ賞も、ハープスターはまったく本気で走っていないのだという。

「すごいスポーツカーは、少しアクセルを踏んだだけでグンと加速しますよね。それと同じで、もともとのエンジンが違うんでしょうね。自ら動きたがらない馬はたくさんいますが、あのレベルの馬でそういうタイプは初めての経験ですね。これまであの子の本気を感じたのは、新潟2歳Sの直線だけ。それも前の馬をかわすときの一瞬だけです。先頭に立ってからは遊んでいましたからね。道中、4コーナー、直線と、押してもまったく動かなかったのに、残り1ハロンを過ぎてから急に動き出して、先頭に立った瞬間、自分で勝手に止めた感じです」

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