川田「想像できない」ハープスターの本気=桜花賞直前スペシャルインタビュー

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わざと“やんちゃ”して乗り手を困らせるように

ハープスターの“本気”を感じたのは新潟2歳Sの直線だけ 【netkeiba.com】

「最近は、追い切りでもますます動かなくなりました」と、苦笑いを浮かべる川田。とはいえ、レース同様、時計的には十分動いている数字で、これも乗り手にしかわからない感覚である。

「新馬戦の前の追い切りでは、まだ馬が競馬というものをわかっていなかったぶん、いい動きを見せてくれたんです。仕掛けてからの加速がやはりすごくて、新馬戦は“何があっても負けない”くらいの自信がありました。でも、一度競馬を使ってからは、調教も動かなくなりました(笑)。頭がいいんですよ。賢いからこそ、自ら力をセーブするわけですし、そこに意思があるから動かないんですよね」

 動かないこと以外にも、最近は普段の調教から乗り手を相当困らせているというハープスター。昨秋、川田に話を聞いたときは、「おとなしくて可愛い子です」と言っていたような……。

「それがですねぇ、今年に入ってすっかりわがままをするようになりまして。僕が乗ると時計が出てしまうので、今年は一度も速いところは乗っていないんですが、チューリップ賞の本追い切りのあと、先生が『明日だったら乗っていいぞ』とおっしゃったので、山(坂路)で普通のところを1本乗ったんです。そのときに、僕はもう(調教には)乗れないなと思いました。なんていうんでしょう……、もともとバネがすごいのもあって、“あ、このままでは落とされる”という背中をするんですよ。放馬してケガでもしようものなら、大変ですからね。助手さんも怖いとは思いますが、そこはもうお任せして」

 調教で動かなかろうと、わがままな振る舞いを見せようと、レースに行けばあの強さ。そのわがままにしても、決してパニックになっているわけではなく、レース同様、そこには彼女の意思があるのだ。

「苦しくて、とか、痛いところがあって暴れているのではなく、今はそうやってわがままをするのが楽しいんでしょうね。わかってやっているぶん、余計にタチが悪いんですが(笑)。調教で動かないことに関しても、厩務員さんは『競馬に行けば走ることがわかっているから、もうええわ』って」

“追い切りより動いていなかった”チューリップ賞

乗り替わりも覚悟した阪神JFでの手痛い敗戦 【netkeiba.com】

 川田も含め、日頃から接しているスタッフにとっては、心配の種が尽きない“女王様”であるが、その調教よりも楽な走りで勝ってしまったというのがチューリップ賞だ。

「道中に関しては、これまでで一番リズムよく動いてくれました。成長もあるでしょうし、レースにも慣れたんだと思います。ただ、直線でいえば、追い切りより動いていませんね。追い切ったときのほうが、よっぽど息が上がっていますから。だから、ゴールした後も元気一杯で、慎重に止めないと落とされると思い、愛撫すらできませんでしたからね。それだけ、全力で走っていないということです」

 あれだけの強さを見せつけながら本気で走っていないあたり、能力を出し切ったら、一体どこまで強いのか──ファンの興味はその1点に尽きるだろう。

「想像ができません。僕はもう、あの子が走りたいと思ってくれるよう、気持ちを導くだけです。やはり動物なので、気持ちが第一ですからね。どうやって導くのかとなると、言葉にするのは難しいんですが……。ほかの馬と接触しないようにすることなどは初歩的なこととして、あとは僕と馬との関係性におけるコントロールの仕方。こちらが求めたときに、求めたぶんだけ動いてくれるよう、なんとか気持ちを走る方向に持っていきたいと思っています」

 おそらくハープスターこそが、安藤のいう“出会い”なのだろう。出会った時点ですでに川田のジョッキー人生は変わったはずだが、ここで結果を残せるかどうかで、さらに未来のシナリオは変わってくる。

「僕のジョッキー人生がどうこう以上に、ハープスターがまずひとつ、結果を得ることが大事だと思っています。もちろん、僕にとっても正念場です。ただ、それは望んでいた状況であり、こういう立場になりたいとずっと願い続けてきましたから。そのために、一戦一戦を無駄にしないよう積み重ねてきたつもりですし、その結果、これだけの馬を任せていただけているのであれば、本当にうれしいこと。今はとにかく人馬とも無事に、その瞬間を迎えたいと思っています」

 本気を出して勝つか、あるいは本気を出さずして勝つか──1頭の馬の走りをこんな視点で注目するのは、筆者も初めての経験だ。もちろん、レースは生き物ゆえ、なにが起こるかわからないが、ハープスターがそれほどの器であることは間違いない。

 まずは一冠。川田の待ち望んでいた春が始まる。

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