ユース年代の育成で意識したい2つの視点 “上につながる”選手を“地域で育てる”

小澤一郎

不毛な「高校かJユースか」という対立

ユース年代において「高校かJユースか」という対立は希薄になってきていると語る流経柏の本田監督。われわれはどのような視点でユース年代を見るべきなのだろうか 【写真:アフロスポーツ】

 高校生年代の強豪20チームが東西に分かれ、年間を通したホーム&アウェー方式の総当り戦で対戦する全国リーグの「高円宮杯U−18サッカーリーグ2014 プレミアリーグ(以下、プレミア)」が6日(日)に開幕する。2011年に発足した同リーグは今年度で4回目を迎え、昨年度は並み居る強豪Jユースを押しのけ流通経済大学付属柏高(千葉県)が高体連勢初となる年間王者に輝いた。

 流経柏の偉業を筆頭に、ここ1、2年のユース年代はJユースに対する高校サッカーの巻き返しが目立ち、改めて「高校かJユースか」という対立を仰ぎやすい構図ではあるが、個人的にこの対立軸はサッカーにおける「攻撃か守備か」、「ポゼッションかカウンターか」という問いと同様に不毛なものになりつつあると認識している。要するに、ユース年代における高校、Jユースは共に重要で、共に強いチームがあるということ。

 3月7日に行われた大会概要のメディア対応において、流経柏の本田裕一郎監督も「高校には(指導者が)一日中選手と接する、生活模様を見ることができる利点があり、クラブには(選手の)費用負担が少ないなどの魅力がある」とした上で、「クラブの良さを高校が盗んだり、クラブの弱い部分を高校からまねることがここ数年顕著。どっちが良い悪いではなく、お互いが環境の違いや垣根を乗り越えていい具合に、いい戦いができている」と話していた。

 現場レベルで対立軸や敵対心が希薄になっているどころか、すでに相手の良い部分を吸収して競争力を高めている効果が出始めている以上、われわれが日本のユース年代を見る時には育成という広い視点での新たな見方が必要になってくる。だからこそ、本稿では少し趣向を変えてユース年代を見る上での2つの新たな視点を提案してみたい。

必要なのは「上につながる選手の輩出」

 3月29日に等々力陸上競技場で行われた「DENSO CUP SOCCER 第11回日韓(韓日)大学定期戦」で全日本大学選抜はFW呉屋大翔(関西学院大)のハットトリックの活躍などもあり、6−0という歴史的大勝を挙げた。大学選抜を率いる神川明彦監督(明治大)は「運動量、球際、切り替え」という3原則を周知徹底させ、中でもディフェンシブサードにおける「シュートを打たせない」守備を強調した結果、後半は韓国にシュートを1本も打たせなかった。「そうした守備はサッカーの原則でもあるので、どこのチームに行ってもやり続ける部分」と説明する神川監督は、この試合を視察したU−21日本代表の手倉森誠監督を意識して以下のような話をした。

「今日の試合に向けて、手倉森監督にこういうゲームをお見せしたいという準備をしてきました。U−21日本代表に自分たちのグループから一人でも加わってくれればいいと考えているので、手倉森監督のコメントが掲載されている新聞記事はすべてコピーをして選手に渡しています。その上で、選手には『手倉森監督も守備がベースと言っている。われわれがやっていることは決してバラバラではないし、ユニバーシアードが終わりじゃない』と言っています」

 神川監督の発言からは、日韓戦での勝ち負けや大学というカテゴリー内での評価を超えた「上につながる育成」の意識がうかがえた。逆に言うと、ユース以下の育成年代ではまだまだこの視点が希薄であり、どうしてもカテゴリー内でのチームの勝ち負け、結果ばかりが追い求められる傾向にある。確かに、Jユースのように中高一貫での指導環境がなければカテゴリーをまたいで上を意識する指導は難しいとは思うが、指導者にとって一番の評価や目標は本来「上につながる選手を輩出すること」なのだ。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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