ユース年代の育成で意識したい2つの視点 “上につながる”選手を“地域で育てる”

小澤一郎

求められる“逆算の育成”という意識

富山第一の大塚監督は「世界的に地元の選手を育てる流れになってきている」と話す。「地元から応援されるチーム、選手」かどうかも重要な視点となるだろう 【写真は共同】

 カテゴリーでの結果至上主義を助長しているのがわれわれメディアの存在でもあるのだが、だからこそ自省を込めて「そこで育った選手が上につながっているか」という軸を持ってチームや指導者を見る、評価することがこれからの時代にはより求められる。逆に、現場の指導者たちには神川監督のように上のレベルで求められていることが何であるかを意識した“逆算の育成”が必要になってくる。

 3月12日にプレミアリーグのマッチスケジュールが発表された際、プレスリリースには出場20チームの監督コメントが掲載されていたが、「一戦一戦全力で戦いたい」、「残留を目指して頑張ります」といった当たり障りのない発言が大半を占める中、セレッソ大阪U−18の大熊裕司監督だけは「この素晴らしいリーグの中で一人でも多くトップチームに選手を輩出できるよう頑張りたい」というメッセージを発していた。些細(ささい)なことかもしれないが、近年同クラブが育成で結果を出している理由が垣間見えると同時に、プロ選手を輩出できる育成力を持つ全国トップ20の監督たちから上を意識した発言が聞こえてこない点には寂しさも覚えた。

地域で育てる育成は世界のスタンダード

 第92回全国高校サッカー選手権大会で初優勝を飾った富山第一高の大塚一朗監督は優勝直後の監督会見でメンバー25人のほぼ全員が富山県内出身の選手で日本一を獲った点を強調した上で、「うちの取り組みとしては、寮を作らない。自宅から通える選手でやっていこうということでやっている。人間性を育むには色んな人が関わることが大事で、特に親が関わることが大事」と述べた。

 3月下旬、ジャパンユースサッカースーパーリーグの試合で静岡県の御殿場に来ていた同校を取材した際、大塚監督は「世界的に地元の選手を育てる流れになってきている」という話をしてくれた。

「日本はちょっと異質なところがあって1つに集まらないとなかなか育成できないということでやってきた。でも、ヨーロッパでは底辺を広げていくことで結果的に頂点を高くするやり方が当たり前で、そういうことをしないと日本はワールドカップで勝てないと思っています」

 2008年に富山第一のコーチに就任した際、大塚監督が最も驚いたのは長峰俊之前監督(現同校サッカー部部長)が約35年に渡って築き上げた「育成システム」だったという。富山の町クラブには富山第一OBの指導者も多く、長峰前監督の薫陶(くんとう)を受け「地元の選手たちで母校を日本一に」と志を共にする指導者たちが選手を育て、富山第一に選手を送る仕組みができあがっており、12年に監督へと昇格して以降も大塚監督は「地元の選手で勝ちたい」という思いを強く持って指導にあたってきたという。

 今やプレミアリーグに参戦する少なくない強豪チームが全国から選手をかき集めているが、富山第一が選手権優勝前後であれだけ圧倒的な声援と感謝を地元から受けた理由は単に「日本一になったから」ではなく、「幼い頃から知っている近所の子供たちが日本一になったから」ではないだろうか。「人間性を育むには色んな人が関わることが大事」という大塚監督の言葉を補足すれば、これからの時代は関わる人間の顔が見える、地域で育てる育成がトレンドというよりもスタンダードになっていくだろう。結果的にそれが「地元から応援されるチーム、選手」を育て、強いチームを作る上での下支えとなる。

 こうした2つの視点で今週末から始まるU−18プレミアリーグやユース年代のサッカーを見ていけば、勝ち負けや勝ち点だけでは決して測ることのできないチームが持つ育成力や魅力の測定も可能となるかもしれない。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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