木田優夫の現在〜挑戦を続ける理由〜「10年後もマウンドで投げていたい」
新たな役職「GM兼投手」として
今年で46歳となる木田(左)は、今季から「GM兼投手」として独立リーグ・石川ミリオンスターズで現役生活を続けている 【写真は共同】
その少し前には沖縄での北海道日本ハムの名護キャンプ、さらには東京ヤクルトの浦添キャンプに顔を出し、練習にも飛び入り参加。「石垣島にも行きましたし、今は宮崎ですけど、また沖縄に戻りますよ」。北國新聞でのキャンプレポートの仕事で12球団を行脚中とのことだった。
その男、木田優夫は今季、新たなスタートを切ろうとしている。ドラフト1位指名を受けて1987年に巨人に入団してから、オリックスを経て8人目の日本人メジャーリーガーとして通算5年で65試合に登板した後、2006年に日本球界に復帰してヤクルト、日本ハムでプレー。そして13年からは独立リーグの石川ミリオンスターズに所属。昨季の「投手兼営業」という役職から、今季は「GM兼投手」という肩書きを背負うことになった。
「去年1年間、社長(端保聡球団社長)といろいろと話をしていた中で、チームとしてこういうことをやらないといけない、やった方がいいんじゃないかという話が多かった。今年も僕がミリオンスターズでプレーすると決まった時に、『じゃあもっといろいろと言える立場に』ということで、GMという肩書をもらったんです。その上で、去年やっていた営業の部分も引き続きやっていくつもりです」
独立リーグ1年目の昨季は、ユニホームからスーツに何度も着替え、ネクタイを緩めたその手で白球を握った。「いろいろ経験できて、いろいろと勉強になった」と木田は振り返る。名刺を手に、営業マンとしてさまざまな企業に出向き、球場に戻ればチームの守護神としてマウンドに上った。「まだGM業はそんなに忙しくないですけどね」と言いながらも、昨季以上にグラウンド内外を自由自在に動き回る心づもりだ。
1000円の価値のある、楽しめる球場へ
「独立リーグ、BCリーグの意味って何だということを考えた時に、やっぱりNPBに選手を送り込まないと存在している意味がないですから、それが第一の目標です。でもそれとは別にもう一つ、営業面としてNPBの球団ではできない球場での楽しみ方というのを提供したい。BCリーグの球場をもっと楽しいところにしたいんです」
例えば、石川に住んでいる者がNPBの公式戦を観戦するためには、一番近い球場は地方開催を除くと甲子園になるだろう。すると、チケット代以外に片道3時間以上の時間、さらに交通費、宿泊費がかかる。実際、それだけのお金と時間を費やして観戦に出かけるファンはいる。
木田は続ける。
「NPBにはそれぐらいの価値があるということ。果たしてその人たちが、BCリーグを見に来てくれるかどうか。チケット代は1000円、1200円ですけど、その価値があるのかどうか。普通に野球だけをやっていたら当然、NPBの方が面白くてレベルが高い訳ですから、NPBと同じことをしていたんでは1000円でも出してくれない。どうやって見に来てくれた人に楽しんでもらえるかというのを考えないといけない」
球場に足を運んでくれたファンをいかに満足させて帰ってもらうか――。昨年、木田は試合前に自らマイクを握ってイベントの進行役を務め、試合後は似顔絵も描いた。スタンドにボールを投げ、そのボールを捕った人がその日の試合の始球式を行うなど、ファン参加型のさまざまなイベントを考案し、実施した。
「試合前に必ず君が代を歌う決まりになっているんですけど、一度、歌う人を用意できなかった日があったんですよ。その時は、いつも球場に来てくれていた家族のお母さんに急きょ歌ってもらいましたよ。歌うのが好きなお母さんで、実際にすごくうまかったので良かったです」
木田は楽しげに笑った。