木田優夫の現在〜挑戦を続ける理由〜「10年後もマウンドで投げていたい」
選手としてNPB復帰が目標
昨年11月10日のプロ野球12球団合同トライアウト1回目に参加した木田だったが、NPBからのオファーはなかった 【写真は共同】
「選手として僕の一番の目標はNPBに戻ること。去年はいろいろ試行錯誤しながらやっていた部分がすごくあって、シーズン中の成績はそこまで気にしなかった。数字的にも良かったかもしれないですけど、選手として結果的にNPBに戻れなかったので良くないシーズンだったと思います」
試行錯誤。かつて最速156キロを計測した自慢のストレートの威力を、いかにして取り戻すか。それが、現在の最大のテーマだという。
「スピードアップしないとNPBには戻れないという考えが僕の中にある。去年のシーズン中は最高で144キロでしたけど、やっぱり平均して144、145キロぐらいを投げれないとNPBの球団からは興味を持ってくれない。そう考えると全然物足りない。今でもチャンスをくれればNPBでやれる自信はあるんですけど、そのチャンスを与えてもらうために球の勢いを戻すことが必要だと思う。今のままでは、チャンスを与えてもらえる存在になっていないと思う」
オフにはトライアウトを受けた。打者4人に対して2奪三振。しかし、オファーは来なかった。それでも「(NPBの選手登録期限の)7月末までまだ可能性がある」と諦めるつもりはない。同時に、新たな手応えも感じている。
「去年の10月の終わりぐらいに金沢で空手家の人を紹介されて、その人に身体の使い方、動かし方をいろいろと相談して教えてもらった。骨の位置をどう正確に保てるかとか、実際に自分の中でやり方を変え始めたところなんです。この間、落合(博満)さんと話をしたときもアドバイスをもらったりして、去年は『どうしたらいいんだろう』ということがたくさんあったんですけど、今年は『こうやればいいんだ』ということが増えて来ているんですよ」
「あの時の気持ちをもう一度味わいたい」
「それは全然考えてないんですよ。うちの球団の社長は『投げたかったらいつまででも投げてくれていいよ』と言ってくれていますしね。まぁ、周りの誰かが『NPBに戻るのは絶対無理だから』と言ってくれれば……。僕が納得する形で誰かが言ってくれたら、その時は考えてみます」
12年に日本ハムを戦力外となった際には、コーチ就任の噂もあったが、栗山英樹監督から「続けろよ」という言葉をかけられた。
「後になって球団の人から聞いたんですけど、栗山さんが『木田は絶対に野球を続けるから』と。『あいつが野球をやる気なのにコーチのオファーはするな』と言っていたらしいんです。コーチのオファーがあることで僕が現役を辞めてしまうのが嫌だったみたいです」
周りの励ましがあるにせよ、現役を続ける一番の理由は、木田自身が何歳になっても“野球小僧”だからだろう。打者と対戦すること、ボールを投げること、ユニホームを着て汗を流すことが、誰よりも好きなのだ。
「戦力外になった時もジムに行っていたんですけど、もしこのまま引退したら、このトレーニングも完全な趣味になってしまうし、実際に引退したらトレーニングをするのかどうかも分からない。そういう風になる自分がすごく嫌だった。寂しいという気持ちもあるし、怖いという気持ちもあります。ただ、やっぱり一番はグラウンドに行くのが楽しいから辞められない。ボールを投げること自体が楽しいですし、グラウンドにいること自体が楽しいんです」
楽しむだけでは終わらない。物事を追求した先には感動がある。頑張った後には、鳥肌が立つほどの“ご褒美”があることを知っている。02年、木田はシーズンのすべてを腰のリハビリに費やし、どこの球団にも所属しなかった。だが翌03年、ロサンゼルス・ドジャースとの契約にこぎ着けると、同年8月のシカゴ・カブス戦で登板。その復活登板を無事に終えた後、ベンチから眺めた満員のスタンド、あの景色が忘れられないという。
「投げている時はあんまりスタンドを見ている余裕はなかったんですけど、投げ終わった後にベンチからスタンドを見たらホントに超満員で……。こんな舞台で自分がまた投げることができたんだって、戻って来れたんだって、本当にうれしかった。あの時の気持ちをもう一度味わってみたいというのがずっと頭の中にあるんですよ」