ママさんランナー赤羽、大阪で有終 新星・前田は可能性見せる

中尾義理

喜びも涙もくれた大阪でのラストラン

夫でコーチの周平氏(右)との二人三脚で世界大会にも出場した赤羽 【写真は共同】

 有終の美か、復活劇か、新戦力台頭か――。それぞれの期待感が膨らむ中、26日に行われた第33回大阪国際女子マラソン。日本勢は、後半の追い上げを身上とするタチアナ・ガメラシュミルコ(ウクライナ)に屈し、2時間24分37秒での2連覇を献上した。
 優勝争いともう一つの焦点は、今大会を最後に現役を退く赤羽有紀子(ホクレン)のラストラン。“ママさんランナー”として、五輪や世界選手権を経験した赤羽の有終の美を見たい半面、日本女子マラソンの未来のためには、引退していく実力者を打ち負かす世代の台頭という代謝作用も必要だった。結果、赤羽が経験と実力を発揮して2時間26分00秒で2位。続く日本人2番目に、佛教大4年の前田彩里が2時間26分46秒で全体4位に入ったのは新鮮な収穫だった。有終の赤羽、初マラソンで日本学生最高タイムをマークした前田。大阪は今年も女子マラソンの名場面を作った。


 今大会、エントリーしていた野口みずき(シスメックス)が脚の故障のため欠場。赤羽のラストランに注目が集まるのは自然な流れだった。城西大時代に大学駅伝で快走を連発していた赤羽だが、日本代表レベルに到達したのは2006年の長女出産後。夫であり専属コーチである周平氏と二人三脚で世界での快走を夢見てきた。08年北京五輪にはトラック5000メートルと1万メートルに出場。11年テグ世界選手権ではマラソン5位入賞を果たしたが、12年ロンドン五輪は代表を逃し、昨年11月、この大阪国際女子マラソンで引退すると発表した。

 最後と決めた42.195キロ。大阪のコースは、初マラソン、途中棄権、初優勝と赤羽に喜びも涙もくれた。

有終の美飾った赤羽「本当に幸せ」

笑顔でゴールした赤羽。日本人トップの2位でラストランを終えた 【写真は共同】

 今回はペースメーカーを設定しないレース。2年前の大阪を制してロンドン五輪代表となった重友梨佐(天満屋)が先頭を引っ張り、赤羽もそのペースに合わせた。7キロを過ぎてから、先頭集団は重友、赤羽、カロリナ・ヤジンスカ(ポーランド)の3人。ガメラシュミルコは第2グループから後半勝負を見据えた。
 16キロ過ぎ、重友が脱落。ヤジンスカとトップを並走する赤羽に、沿道から「笑顔で帰ってこい」と周平コーチの声が飛ぶ。赤羽自身がフィニッシュ後に「最後のレースを楽しもうと、ずっとニコニコしていられた」と振り返ったように、2人の気持ちが通じ合っていた。

 中間点で赤羽と41秒差あったガメラシュミルコが、31キロ付近で赤羽に追いついてきた。そして2人で、先頭を走るヤジンスカを抜く。優勝争いを演じる赤羽だったが、37キロ過ぎにガメラシュミルコから遅れてしまった。それでも勝負に対して、さらには自分自身に対して、決してあきらめていない、そんな表情でストライドを伸ばし続けた。

「最後はすっきりしたい」と話していた赤羽。一歩一歩に気持ちを込めて長居陸上競技場のトラックに帰ってきた。周平コーチとの約束を果たすように、ほほ笑みをこぼしながら両手を広げて、マラソン人生を完結させた。

「欲を言えば優勝したかったですが、順位も記録も満足しています。あきらめなかったことが良かった。やり切ったと思います。夫とは(練習方針などで)たくさんぶつかりもしましたが、話し合って、五輪も出場でき、世界選手権で5位にもなれ、本当に幸せです」

 2連覇したガメラシュミルコも赤羽と同じ7歳の娘を持つママさんランナー。日本でも、赤羽以前にママさんランナーがいなかったわけではないが、五輪・世界選手権に出場するほどの実力を持ち、ママさんランナーとして世界に挑み続けた赤羽の功績は大きい。

 これからは、これまで合宿や遠征などで寂しい思いをさせた愛娘と過ごせる時間も増える。競技の大きな区切りを迎えた赤羽にとって、“ママさんランナー”というのは生き方の1ページだった。誰もが真似をできるわけではないが、その競技スタイルを選択する次世代がきっと後に続くだろう。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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