水谷隼、全日本2連敗の悔しさ乗り越えて 敗戦の恐怖に勝ち6度目の栄冠

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ゲームを奪われても失わなかった強い気持ち

優勝を決めた瞬間、水谷は天高く拳を突き上げた。敗戦の恐怖が襲う中、最後まで強い気持ちで挑み、勝利をつかんだ 【写真は共同】

 迎えた最終日。準々決勝はあっさりとストレート勝ちした水谷だったが、続く準決勝は少し違っていた。10年全日本学生選抜チャンピオンの上田仁(青森大)に対して、第3ゲームまでほぼ完璧と言える試合運びだったのが、第4ゲームで急変。得意のラリーでも競り負けるなどして2ゲームを立て続けに奪われた。
 水谷はその原因を、第4ゲームで上田が戦術を変え、その対応に手こずったためと説明する。

「最初の方(の試合)はすべてストレート勝ちでしたが、準決勝で初めてゲームを落として、消極的なプレーばかりになってしまいました。下手をしたら逆転負けしそうな状態でした」

 それでも気持ちを引き締め直して、第6ゲームは追いすがる上田を11−9で退け、ゲームカウント4−2で決勝に駒を進めた。

 決勝のカードは、ジュニア男子で過去4年連続で3位に輝いた19歳の新鋭・町飛鳥(明治大)が相手だった。明治大の後輩にあたる町との対戦に驚いたという水谷だったが、練習では何度も戦っており、「あまり深く考えずに、自分のプレーを出し切ろう」と決めていた。

 その言葉通り、序盤から多彩なボールを打ち込んで相手を翻弄(ほんろう)。やすやすと最初の3ゲームを連取し、このペースで水谷が完勝するかと思われた。しかし、2回戦から這い上がった町にも意地があった。第4ゲームは、4−5から町の猛攻に遭い、1ポイントも取れずにあっけなく奪われた。
 だが、水谷は冷静だった。過去7度、全日本の決勝で積んだ豊かな経験があった。

「(第4ゲームを取られて)危ないなとは感じていました。非常にアグレッシブなプレーでかなり押されていましたし。ただ、僕のボールがバックサイドに集まっていたので、フォアサイドに切り替えたらまた自分のペースになりました」

 そうして再び流れをつかんだ第5ゲームは、“水谷劇場”と言わんばかりに容赦なく攻め立てると、最後は渾身(こんしん)の力を込めたスマッシュを打ち込み、ゲームカウント4−1で締めた。決勝前、「誰よりも優勝したいと思って来ている。絶対に優勝して帰りたい」と気を吐いた水谷。悪夢が呼び起こした不安に駆られながらも、強い気持ちで挑んだからこそつかんだ栄冠だった。

課題はメンタル強化、調子が上がれば「中国に勝てる」

 他を寄せつけない圧巻の試合運びで、水谷は全日本王者の称号を取り戻した。この優勝で、2年間抱え続けたトラウマも払しょくできたかと思いきや、本人は厳しい見方をする。

「勝てたので良かったですが、プレー自体はそんなにパーフェクトではありませんでした。まだまだ甘い部分はあったと思う」

 代表に内定した4月の世界卓球・団体戦に向けても、「相手にゲームを奪われると、自分のプレーがそれまでと変わることを実感しました」と、メンタル強化を課題に挙げる。ただし、精神面を克服してコンディションを上げることができれば、「中国に勝てる」と強気な顔ものぞかせた。

 再び日本一に返り咲いた水谷が次に見据えるのは、世界の舞台だ。東京で行われる世界卓球へ向け、絶対エースのさらなる進化を期待したい。

<了>

(文・小野寺彩乃/スポーツナビ)

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