水谷隼、全日本2連敗の悔しさ乗り越えて 敗戦の恐怖に勝ち6度目の栄冠

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絶対エースが3年ぶりの王座返り咲き

3年ぶり6回目の日本一に輝いた水谷。ここ2大会連続決勝で敗れていたが、ようやく王座に返り咲いた 【写真は共同】

「負けるんじゃないかと思った」

 右手の拳を天高く突き上げて、2年ぶりの王座奪還に歓喜した男が試合後、口にしたのは、そんな弱気な言葉だった。

 19日に行われた卓球全日本選手権最終日、男子シングルスを制したのは、24歳の水谷隼(DIOジャパン)だった。その経歴は輝かしい戦績に彩られている。17歳で迎えた2007年の全日本で初制覇を果たすと、以来5年間、王座に君臨。09年と13年の世界選手権では岸川聖也(ファースト)とのペアリングでいずれも銅メダルを獲得するなど、絶対エースとして日本男子卓球界をけん引してきた。

 しかし、6連覇の懸かった2大会前の全日本では、高校3年生の伏兵・吉村真晴(現・愛知工業大)にフルゲームの末にまさかの敗戦。ベンチコーチ不在で臨んだ13年の全日本でも決勝で丹羽孝希(明治大)に敗れ、またしても王座奪還を逃した。全日本5連覇からの2年連続決勝敗戦。その悔しさは、水谷にとってはトラウマのようなものだった。

最終日前夜に見た“決勝逆転負け”の悪夢

 試練の2年間から一転、今季の水谷は海外に飛び出し、9月からヨーロッパチャンピオンズリーグに、11月からはロシア・プレミアリーグにそれぞれ参戦した。中学2年からドイツに卓球留学した経験があり、「もう一度ヨーロッパのリーグに挑戦して、また一からやりたいなと思って参加を決めました」。また、同じ11月にはDIOジャパンと所属契約を交わし、プライベートでは結婚もした。

 水谷が「非常に調子が良くなってきた」と振り返るのは、ちょうどこのころにあたる。好調の波は年をまたいでも続き、今年1月の国際トーナメント台北大会で見事優勝。「上り調子の中で全日本を迎えられて、自分でも自信がありました」と、満を持して全日本の舞台に戻ってきた。

 スーパーシードとして4回戦から登場した水谷は、6回戦までの3試合で1ゲームも奪われないパーフェクトゲームを展開。他を寄せつけない強さを遺憾(いかん)なく発揮した。
 しかし、準々決勝から決勝までが行われる最終日を前に、水谷は再びあの嫌な気持ちを思い出してしまう。

「決勝で負けた夢を見たんです。パッと起きて寝たら、また同じ夢。そればっかりが頭にあって『また負けるんじゃないか』という思いが強くありました」

 実は1週間前から体調が悪く、一晩中せきが止まらない中で見たのだという。しかも夢の中では、最終ゲームを9−3から逆転負け。再び繰り返されるのか……。そんな思いが、水谷の頭を何度もよぎった。

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