【JBC】川田騎手が涙、生まれ故郷・佐賀競馬に錦飾るJpnI勝利 ウィルソンテソーロら3頭が初戴冠

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九州・佐賀競馬場で初めて開催されたJBCのメインレース「クラシック」は、同競馬場で生まれ育った川田将雅騎手が騎乗した1番人気ウィルソンテソーロが圧勝 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 ダート競馬の祭典・JBCが11月4日、九州地区では初となる佐賀競馬場で開催され、2000mで行われたメインレースのチャンピオン決定戦「クラシック」は川田将雅騎手が騎乗した1番人気ウィルソンテソーロ(牡5=美浦・小手川準厩舎、父キタサンブラック)が優勝。中団待機から2周目で馬群の中を3番手まで押し上げていくと、3コーナーで一気に先頭に立って後続を突き放し、そのまま2着のメイショウハリオ(牡7=栗東・岡田厩舎)に4馬身差をつけJpnI初勝利を飾った。良馬場の勝ちタイムは2分8秒0。2着から3馬身差の3着には追い込んだキリンジ(牡4=兵庫・新子厩舎)が入った。

「川田」コールにヘルメットを脱いで一礼

1万2千人を超える大観衆から「川田」コール、それに応えるように川田騎手はヘルメットを脱いで一礼した 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 1万2386人の大観衆で埋まったスタンドをこだまする「川田」コール。その声に応えるように川田騎手がホームストレッチの真ん中で馬を止めると、ヘルメットを脱いでファンに向けて深々と一礼した。

「普段なら絶対にしないようにしているのですが、ぜひ皆さんにウィルソンを見ていただきたいと思って」

 自分のルールを破ってまで見せた地元のヒーローの姿に、また一段と歓声が大きくなった。曽祖父、祖父、父と3代続けて佐賀競馬の調教師という競馬一家に生まれた川田騎手。故郷でのビッグレース開催を誰よりも喜び、心待ちにしていた。

「ここで生まれ育ち、ゲート裏を回っているときに、あそこで僕はちびっこ相撲の練習をしていましたから。そんなところでJBCを開催してくれるようになり、これだけ素晴らしい馬と巡りあえて佐賀に来ることができました」

 日本時間の前日3日早朝には米国競馬の祭典ブリーダーズカップに騎乗していたが、武豊騎手、坂井瑠星騎手らとともに強行軍をものともせずにとんぼ返り。佐賀競馬場史上最大のお祭りに花を添えた。

2着はもういらない、「必ず勝つ競馬をしよう」

惜敗続きだったウィルソンテソーロの近走のうっぷんを晴らす快勝、川田騎手は「勝つ競馬をしようと挑んだ」と語った 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 もちろん、ただレースに騎乗するだけではない。ウィルソンテソーロはこれまでGIで2着が3度。昨年のJBCクラシックは5着に敗れていた。それだけに「何より具合が良かったですし、『必ず勝つ競馬をしよう』と、ウィルソンとともに挑みました」と必勝態勢で臨み、つかんだ会心の勝利だった。

「このクラシックでウィルソンとともに勝ち切ることができたことで、皆さんからこれだけ温かい声援をいただけたことが本当に騎手冥利に尽きます。こんなに小さな佐賀競馬場で生まれ育ち、色々なところを旅してレースをさせていただきましたが、地元でGIを勝つというのがこんなに感極まるのだなと、本当に嬉しく思っています」

 そう語った川田騎手の目から涙があふれた。いつもクールなジョッキーには珍しく、ゴール入線後には馬上で立ち上がるくらいの派手なガッツポーズも見せていた。小手川調教師も「川田さんがあんなにガッツポーズするのを初めて見ましたので、自分も込み上げてくるものがありましたね」と明かしたほど。それだけ、この1戦にかける思いが強く、そして大きかったということだろう。

ウシュバに続け! テソーロ軍団の新エースへ

同じオーナーのウシュバテソーロに続け! ウィルソンテソーロのさらなる活躍に期待したい 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 故郷でのGIレースで最高の錦を飾った忘れられない1日。川田騎手はファンに向けて何度も感謝の言葉を送るとともに、これからの佐賀競馬に向けても愛情たっぷりにユーモアを交えながらエールを送った。

「この開催だけに限らず、佐賀競馬は通年開催しています。九州の皆さまに競馬の喜びを届けたいと競馬関係者の皆さんが頑張っていますので、ぜひこれからも足を運んでいただけたらと思います。そして、僕自身も生まれ故郷の佐賀競馬場がより活躍する姿を楽しみに見たいと思いますし、JRAの馬でこちらにお邪魔して全てを負かしてやりたいとも思っています(笑)。これからも皆さんとともに競馬を楽しんでいけたらと思います」

 一方、GI馬の仲間入りを果たしたウィルソンテソーロについても「なかなか勝ち切ることができず、それでも素晴らしい競馬を続けながら一歩一歩成長して、GI馬までたどり着いてくれました。同じオーナーのウシュバテソーロに追いつけるように、これからもウィルソンとともに精進していきたいなと思っています」と期待のコメント。小手川調教師も「海外遠征を続けたことで精神的にもタフになった。川田騎手も精神面の成長を褒めていた」と、ここに来てのさらなるパワーアップを実感している。

 この勝利で名実ともに、ウシュバに続くテソーロ軍団の新エース襲名だ。

激戦制したタガノビューティー、9度目の挑戦で悲願

ハナ差の大激戦を制したタガノビューティー(右)、9度目の挑戦で悲願のGI級レース勝利 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 1400mで行われたダート短距離王決定戦「スプリント」では、直線での2頭の大激戦にスタンドが大きく沸いた。武豊騎手騎乗の1番人気チカッパとの叩き合いをハナ差で制したのは石橋脩騎手が騎乗した4番人気タガノビューティー(牡7=栗東・西園正都厩舎、父ヘニーヒューズ)。ダート・芝合わせて9度目のGI級レース挑戦、7歳秋にしてついに初のビッグタイトルを手にした。

 デビュー戦を含めてこの日で29戦目のコンビとなる石橋脩騎手は「僕の勝ちたいという気持ちのあまり2着馬を押してしまって、きれいな形ではなかったですが……」と反省を口にしながらも「とにかく勝ちたかったです」と思いを吐露。その執念が実った。

 道中は脚をタメながらの中団待機。いつもなら直線の末脚にかける馬だが、この日は違った。3コーナー手前から大外を一気に捲って進出。4コーナー手前で早くも先頭に躍り出るという積極策を打って出た。

「内にせよ外にせよ、手応えがあるのなら思い切って乗ろうと思っていました。今日は馬がすごく前向きで気持ちを途切れさせずに走っていたので、あとはしのいでくれと」

 4コーナーのインを鋭く切り込んできた武豊騎手&チカッパの強襲を振り切り待望のGI・1着のゴール。八木良司オーナー、西園正調教師、厩舎スタッフ、そしてタガノビューティーに向けて「感謝しかないです」と語った歓喜のジョッキーは「言葉が見つからないですね。もう思い残すことがないくらい嬉しいです」と素直な心のうちを明かした。

 また、「涙が出てきました」と同じく感無量の表情で喜びを語った九州・鹿児島県出身の西園正調教師は、今後のタガノビューティーに関して「現役生活も短くなってきましたので、オーナーと相談して花道をきれいに飾っていきたいと思います」と、さらにもう一花咲かせたい意欲を語った。

3歳ダートは牝馬も強い! アンモシエラが圧逃V

3歳牝馬アンモシエラが圧巻の逃走で新ダート女王に 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 JBC3競走のオープニングを飾った1860mの女王決定戦「レディスクラシック」は、横山武史騎手が騎乗した4番人気アンモシエラ(牝3=栗東・松永幹夫厩舎、父ブリックスアンドモルタル)が4馬身差の逃げ切りVで初のGI級レース勝利。スタートからハナを奪うと、2番手以下を引き離す果敢な逃げで後続に影も踏ませなかった。

「逃げることしか考えていなかったです」と横山武騎手。2周目、最後の直線で砂が深いインをあえて突き進んだことも「作戦通りです。1周目は馬場の軽い外めを通して、2周目はギャンブルですけど3、4コーナーで内・外の差を使って後続を離せればと思っていたので、すごく理想的な競馬ができました」と、思い描いた通りに愛馬の持ち味を出し切ることができた。

 アンモシエラは牝馬ながら牡馬相手のJpnIIIブルーバードカップを勝利し、新設されたダートクラシック三冠の羽田盃で2着、東京ダービーでも3着と好走。性別を超えて3歳ダートのトップ戦線を年明けから走ってきた。そして、3歳世代のダートと言えばフォーエバーヤングに代表されるように近年最強クラスと言っていいほどのハイレベル。そんな3歳馬の質の高さを証明した勝利でもある。

「体がまだ細いので、もっともっと大きくなってくれればさらに楽しみ。テンションの高さなど課題も残る馬ですが、3歳でこれだけ強い勝ち方をしてくれて、今後の成長がよりいっそう楽しみになりました」と、初のダートグレードJpnIを勝利した横山武騎手は今後のアンモシエラに期待でいっぱい。九州・熊本県出身の松永幹調教師は「私もジョッキー時代にここで乗せていただきましたので、JBCが開催されるのは感慨深いですね」と語るとともに、「いいスピードを持続してくれるのがこの馬の強み。完成したという感じではないので、これからまだまだ強くなるんじゃないかなと思います」と、アンモシエラのさらなる成長への手応えを語った。

「あたたかくて、アツい、九州競馬魂」を実感した1日

佐賀競馬場には1万2千人を超えるファンが来場、大きな熱気に包まれた 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 九州で初のJBC開催となった佐賀競馬場は予定よりも30分早い9時30分に開門するなど1万2千人を超える超満員の大入り。行き帰りのバス・電車内で聞こえてくる会話からは九州だけでなく、おそらく関西・関東から来場したのではないかというファンも多く見られ、競馬場内はとにかく大きな熱気に包まれていた。

「こんなにお客さんが入ったのを人生で初めて見ました。本当、競馬ってすごいなって改めて思って、その瞬間に立ち会えたことがすごく嬉しく思います」と語ったのは、最終レースのネクストスター佐賀を1番人気のミトノドリームで勝った地元の石川慎将騎手。そう、ファンは19時15分発走の最終レースまで残り、JBC3競走と同じくらいの大歓声を送り続けていた。

 そして、飲食店や売店も含めたレトロな佇まいを残す地方競馬独特の雰囲気もまた、たまらない魅力の一つだ。

『あったかくて、アツいぜ。九州競馬魂。』

 このキャッチコピー通り、九州に根付く競馬文化のあたたかさ、そしてアツさを体験した1日だった。また近い将来、佐賀競馬場にJBCが帰ってくることを願いたい。(取材・文:森永淳洋)
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