日本テニス躍進を支える「早熟と晩成」=ひと味違う全豪オープンの楽しみ方
10代で世界と渡り合ってきた早熟型の錦織は“特別な才能”の持ち主。今季はトップ10入りを視野に入れて臨む 【Getty Images】
トップ選手がレジェンドに教えを請う理由
チャン氏の身長は178センチの錦織選手よりもさらに低い175センチ。同じアジア系のチャン氏がなぜ世界ランキング2位という高みにまで到達できたのか? 昨年、錦織選手のコーチに就任する直前のチャン氏と会食する機会に恵まれました。その際にチャン氏は「神の思し召し」という言葉を使って、才能とそれを伸ばす環境がなければ、世界のトップ10の壁は破れないと話していました。同時に世界のトップ10は、ほんのわずかなところで勝敗が分かれるとも言っていました。
マレーがイワン・レンドル(旧チェコスロバキア)に師事しているのは有名ですが、昨年末にジョコビッチがボリス・ベッカー(ドイツ)に、フェデラーがステファン・エドバーグ(スウェーデン)に相次いでコーチ要請をしました。現役のトップ選手たちがレジェンドに学ぶ動きが起きているのも、わずかな違いを同じレベルで理解できるコーチにアドバイスを受けたいという、ディテールの大切さを象徴する出来事なのかもしれません。
錦織選手がチャン氏に学ぶ効果は技術面だけでなく、精神面にもはっきりと表れてくるでしょう。今季初戦となったブリスベン国際でも2年連続の4強進出と、早速その成果が出ているようです。
早熟の錦織、晩成の添田と伊藤
20代になって急成長を遂げた添田は典型的な晩成型。錦織に次ぐ存在として、日本テニス界をけん引する 【Getty Images】
錦織選手のような世界トップ10入りを目指す早熟・天才型の選手は、次から次に輩出できるような選手ではなく、生まれてくるものだと言わざるを得ません。しかし、錦織選手のような早熟の成長曲線でなくても、世界のトップに肉薄する日本人選手たちが出てきています。その代表例が全豪オープンでも活躍が期待される添田豪選手と、今大会は予選からのチャレンジとなった伊藤竜馬選手です(伊藤選手は残念ながら予選敗退)。
この2人はいずれも松岡さん以降、錦織選手以外は開くことのできなかったトップ100の重い扉を、20歳を過ぎて開いた「晩成型」の選手たちです。こうした晩成型の選手たちは、恵まれた環境を若くして手にできる早熟型の選手たちとは違い、過酷な道を自力で歩んできた選手たちです。ポイントを積み重ねるために、観光ではまず訪れないような地域で開催されるトーナメントツアーに足を運び、同時にコーチやレベルの高い練習パートナーやコネクションを自分で探し、レベルアップに努める。トップ選手が求めるディテールの細かさとはまた別の細かさが彼らに求められます。中でもどの大会に出場するか、どのトーナメントでポイントを稼ぐかという戦略的スケジューリングは彼らに不可欠なものです。
添田選手は今季の初戦にインドのチェンナイ・オープンを選び、伊藤選手は全豪オープンが行われるオーストラリアでブリスベン国際を戦いました。ともに本戦出場はなりませんでしたが、こうしたチョイスにそれぞれの考えが色濃く反映されるのが晩成型の特徴です。