日本テニス躍進を支える「早熟と晩成」=ひと味違う全豪オープンの楽しみ方

坂井利彰

早熟化が顕著な女子、クルム伊達は異色の存在

早熟化が顕著な女子において、長年活躍し続けるクルム伊達は異色の存在。今季も世界と戦える準備をしている 【Getty Images】

 全豪オープンを展望すると、錦織選手にもぜひ絡んでほしい優勝争いですが、やはり11年から3年連続で優勝を果たしているジョコビッチの優位は揺らぎません。4強ではフェデラーがやや脱落傾向にありますが、シーズン最初のグランドスラムであること、気温が高い南半球での試合になることを考えると、粘り強さを発揮した選手が栄冠を勝ち取ることになりそうです。ブリスベン国際を制し勢いに乗る地元のスター、レイトン・ヒューイットにも期待が懸かります。錦織選手の同年代、フアン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)、マイロス・ラオニッチ(カナダ)といった中堅選手もそろそろ世代交代を果たさなければいけない年齢です。

 男子シングルスでは、ここ数年、ベテラン選手が結果を出すというツアーの高齢化が顕著です。これは晩成型の選手たちにとっても有利に働いているのですが、現代テニスはトレーニングの進化、技術の向上によって、筋力や瞬発力といった単純な身体能力の差だけでは勝敗が決まらないスポーツになりつつあります。

 男子より早熟化が顕著な女子で、異質な活躍を見せているのがクルム伊達選手でしょう。テニスの進化を背景に、蓄積された経験、精神面でのタフさを武器に、今季も世界トップと互角に戦える準備をしてきています。昨年の全豪オープンでは、シード選手のナディア・ペトロワ(ロシア)を完璧なテニスによってストレートで下す輝きを見せた伊達選手。今季も超ベテランが見せる円熟のプレーから目が離せません。

 日本女子選手はクルム伊達選手のほかに、森田選手、奈良選手、土居選手が本戦から登場します。いずれもランキング100位以内に位置し、経験を積んでいる選手たちだけに、全員に初戦突破の期待が懸かります。やはり女子選手は早熟傾向が強いので、男子と同じような比較は難しいのですが、キャリアを伸ばして結果を出す選手も増えてきており、20代前半の森田、奈良、土居選手がさらに成長していくためには、男子の晩成型選手たちの成長手法に目を向けてみるのもひとつの手かもしれません。

 女子の優勝候補最右翼は、少し調子を落としているとはいえ、やはり全豪オープン連覇中のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)でしょうか。復調次第でセリーナ・ウィリアムズ(米国)、昨年の東レ・パンパシフィック・オープンを制したペトラ・クビトバ(チェコ)、中国のナ・リ、アグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド)なども調子次第では優勝争いに加わってくるはずです。

タレントがそろう日本テニス界の正念場

 錦織選手がトップ10への大きな挑戦に踏み出した今季、全豪オープンはひとつの目安になる大会と言っていいでしょう。添田選手も30歳を迎えるシーズンで再び世界のトップに返り咲くべく、黙々とトレーニングをこなしています。伊藤選手は昨季からトレーニングの拠点としているブレークポイント・トラベリングチームでの充実した日々を結果に還元する勝負の年を迎えています。

 日本テニス界は今季、デビスカップでワールドグループに復帰しました。まもなく初戦のカナダ戦(1月31日〜2月2日)が行われ、タレントがそろってきている中での正念場を迎えます。錦織選手の傑出した才能だけでなく、年齢は上でもキャリアでは後に続いた晩成型の選手たちによってより豊かさを増しているのは事実。添田、伊藤両選手に続く晩成型の選手たちが続々と現れるような育成環境の整備を進めることで、錦織選手のような才能豊かな選手を漏らすことなく的確にピックアップしていく。テニスは個人競技の側面が強いのですが、こうしたシステムを日本全体で構築することも重要です。

 錦織選手、添田選手、伊藤選手を軸に早熟型、晩成型のお話をしてきました。今年の全豪オープンでは錦織選手がどこまで勝ち進むのか? 優勝するのは誰か? こういった“正統派”の楽しみ方はもちろんですが、 選手の年齢やランキングに注目して、直前の大会のチョイスや選手の思惑、今季に懸ける決意を想像しながら観戦するのも面白いかもしれません。

<了>

(構成・大塚一樹)

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 錦織圭、添田豪、伊藤竜馬……日本の選手たちが続々と世界ランキングTOP100に入り、グランドスラム(4大大会)でも勝利を飾れるようになった。日本テニス界は今、かつてない黄金期を迎えている。中でも錦織圭の活躍は目覚しく、日本男子の世界ランキングの記録を塗り替え続けている。しかし、錦織圭は世界的に見ても特異な存在。それ以外の選手が、世界のトップにたどり着くまでの道程はさまざまで、誰もが“テニスエリート”だったわけではない。では、どのようにして世界のトップにまで上り詰めることができたのか。日本テニスが世界と互角に戦えるようになった理由とその背景にあるものを長年の研究データに基づいて紐解いていく。指導者、現役選手やその保護者にとどまらず、ファン目線でも楽しめる一冊。

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著者プロフィール

慶應義塾大学専任講師。1974年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了。高校時代はU18日本代表、高校日本代表に選出。大学時代は全日本学生シングルス優勝、ユニバーシアード日本代表、ナショナルチームメンバーに選出。プロ転向後は世界ツアーを転戦し、全豪オープンシングルス出場。世界ランキング最高468位、日本ランキング最高7位(ともにシングルス)。引退後は慶應義塾大学庭球部監督に就任。ATP(世界男子プロテニス協会)公認プロフェッショナルコース修了、ATP公認プロフェッショナルコーチ、日本テニス協会公認S級エリートコーチ、日本プロテニス協会理事を務める

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