好意的に受け入れられた本田圭佑=活躍への期待感にあふれた入団会見

神尾光臣

現地メディアは好意的な反応

入団会見を行った本田の姿勢は、現地メディアにも好印象を与えたようだ 【神尾光臣】

「サムライスピリット? 僕はサムライに会ったことはないので……」。ジュゼッペ・メアッツァ(サンシーロ)のエクゼクティブルームで、地元のイタリア人記者の間からもどっと笑いが起こる。本田圭佑のミラン入団会見中、通訳を介して笑いを取るシーンが少なくとも3度はあったことを、中継を通して日本で確認された方もきっと多いことだろう。そんな彼の様子は、現地ミラノの人々にも好意的に映ったようである。

「ありきたりのことを言わない男だね!」。居合わせた記者たちに話を聞くと、そろってこう答えた。一般紙『レプッブリカ』のステファノ・スカッキ記者は言う。「外国語ですぐにああいう返しができるってことは、人の言うことを落ち着いて聞けて、考えられている証拠だろう。実際見ていても、落ち着いた人間だなという印象を受けた」。『イル・メッサッジェーロ』紙(ローマ本拠の新聞だがミラン、インテル番は存在する)のサルバトーレ・リッジョ記者は、そんな本田のパーソナリティーが現在のミランに必要だとまで言う。

「だってそうだろう。あのサングラスについての質問といい、『レストランを紹介してくださいよ』という本田の答えだって、邪険に答えてやろうと思えばできたよな。そういうことをせず、ウイットに富んだ返しをしてみせたのは、聞き手に対するリスペクトというものを感じたよ。実際に会見でも、盛んに『練習、準備』という言葉を繰り返していた。今のミランには人間的にも必要な存在だよ。(マリオ・)バロテッリや(ムバイ・)ニアングのような、頭のネジが飛んだ奴らを見れば分かるだろ?」

好印象を与えた本田の姿勢

 成績が低迷する現在のミランは、戦力不足もさることながら、選手間の規律の緩みが指摘されている。相変わらずキレやすく、もはや審判にも相手にされていないとさえささやかれるバロテッリは言わずもがな、モンペリエに期限付き移籍となり「ミランは奴一人のためだけにプレーしていた」と毒づいたニアングにしても、まったく守備の規律を守らない男だとして批判の対象になっていた。そもそも、バルバラ・ベルルスコーニ女史が「金の使い方が悪い」と指摘したのも、バロテッリ(さらにはその代理人であるミーノ・ライオラ)という現状を問題視したからだという声も漏れ聞く。

 ともかくその中で、「サムライには会ったことはないが、諦めない日本人の資質をピッチでお見せしたい」と語った本田の姿勢は、なかなか好印象だった模様だ。英語の堪能なウンベルト・ガンディーニ運営部長(ミラネッロの初訪問で本田を案内していた人物)以下、本田が想像した以上に英語も案外通じる環境だったようで、スムーズに溶け込むことができるのかもしれない。

即戦力としての期待を背負う

 さて、リーグ第19節・12日のサッスオロ戦が本田のデビュー戦と目されているが、アドリアーノ・ガッリアーニ副会長は「時差の調整には時間が要る」と、起用に慎重な姿勢を見せている。到着直後、体を動かすことを望んでクラブに止められるなど、やる気を見せていた本田自身も、「1カ月くらいプレーしていなかったから」と冷静に語っていた。

 もっともミランは、チームの台所事情の面でも本田を早く必要としているはずである。攻守のバランスを重視するマッシミリアーノ・アレグリ監督はシステムを4−3−2−1に落ち着けているが、前線と中盤の繋ぎ役として重要な2シャドーをこなせるトップ下の選手は、スロベニア代表MFバルテル・ビルサの故障により現在はカカだけだ。

 幸い1月はコッパ・イタリアがあり、本田にとっては試合の回数をこなし、チームに順応する時間が多く与えられることになりそうだ。「早くチームに慣れてくれるよう期待している」と、アレグリ監督も即戦力としてのいち早い貢献を望んでいる。本田が実直な姿勢でコンディションを作り、精神的にも不安定なチームの中でアスリートとして懸命に動いたとき、低迷する名門のムードは本当に変わるのかもしれない。そんな夢を見させるには十分な、期待感にあふれる入団会見だった。

<了>
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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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