伝説的アンカー勝負の男子と独走Vの女子=対照的だった全国高校駅伝

中尾義理

男子はトラック勝負を制した山梨学院大附高が初優勝。写真はアンカーの西山 【写真は共同】

 師走の京都・都大路が今年も高校生のたすきのドラマで熱くなった。22日に行われた男子第64回・女子第25回全国高校駅伝。男子7区間42.195キロは4校のアンカーによるトラック勝負を山梨学院大附高(山梨)が2時間3分53秒で制し、女子5区間21.0975キロは3区から独走した豊川高(愛知)が大会歴代2位タイの1時間6分54秒で最多4度目の頂点に立った。

山梨学院大附がトラック勝負制す

 男子スタートから2時間2分30秒がたったとき、伊賀白鳳高(三重)、山梨学院大附、大牟田高(福岡)、世羅高(広島)が一群となってトラックに帰ってきた。見守る者たちの歓声と興奮が4人に浴びせられる。
 残り200メートル。精神的にも極限状態の4人の中から、山梨学院大附高の西山令(3年)が仕掛けた。大牟田高の鬼塚翔太(1年)が食い下がったが、西山は追走を振り切り、歓喜の瞬間に飛び込んだ。“勝ちたい”気持ちは4人に共通していただろう。ただ、西山には前回7区区間賞という自負と、“勝てる”という確信があり、そこに1秒の明暗が生まれたのだった。

 レース前は初優勝を狙う山梨学院大附高、前々回Vの世羅高、九州の雄・大牟田高が優勝候補に挙げられた。さらに、都道府県予選トップタイムの伊賀白鳳高、関東大会を今季高校最高となる2時間4分26秒で制した八千代松陰高(千葉)も主役の座を狙っていた。

 1区は中間点5キロを15分10秒で通過。3区に強力なケニア人留学生ポール・カマイシ(1年)が待つ世羅高に対してアドバンテージが欲しい山梨学院大附高の上田健太(3年)や大牟田高の大山憲明(3年)だったが、区間2位の上田と区間10位の世羅高・貞永隆佑(3年)の差はわずか8秒。区間16位の大牟田高は逆に12秒のビハインドを背負った。

 1、2区連続区間賞で発進した小林高(宮崎)を先頭に、いよいよ3区が開幕。カマイシが1.5キロまでに10人を抜いて先頭へ。しかしそこからペースが上がらない。八千代松陰高1年生・羽生拓矢の3区日本人歴代3位の快走もあって、4区中継で2位八千代松陰高に13秒差、3位山梨学院大附高に46秒差と期待された以上の貯金は作れなかった。来日して初めての冬の寒さや駅伝の経験不足も、カマイシの脚を鈍らせた。

1区・上田「全員で勝ち取った優勝」

 首位に立ったものの誤算が生じた世羅高を急追したのが、5000メートルで今季日本人高校最高の13分56秒31を持つ山梨学院附高の4区・市谷龍太郎(3年)だった。区間の前半はじりじりと、中間点を過ぎると一気に差を詰めた。中継所では16秒差。山梨学院大附高は5区で大牟田高と伊賀白鳳高に並ばれたが、4区で30秒も挽回した勢いはたすきに残っていた。6区の矢ノ倉弘(3年)が世羅高を追い詰め、7区西山が劇的にタイトルをつかんだ。

 山梨学院大附高の走った3年生5人は入学時から「3年生で都大路制覇」を掲げてきた。それを有言実行。箱崎孝久監督は「一人一人が最高の走りをしてくれました」とメンバーを褒め上げ、1区の上田は「個性派ぞろいのチーム。それでいてみんなが同じ思いを持っていました。全員で勝ち取った優勝です。これからも目標に向かって揺るがない気持ちを大切にしたい」と胸を張った。有力5人衆が前回8位入賞時と同じ区間を走ったことも、きわどい勝負を制するのに有効だった。

 全国高校駅伝はこれまで数多くの名勝負を繰り広げてきた。第40回大会と第51回大会は1秒差で決着し、第58回大会は1、2位が同記録だった。しかし今回はそれ以上のドラマ性があった。最後まで勝つことをあきらめなかった上位4校の2時間3分台は大会最高水準。初入賞した学法石川高(福島)の2時間5分15秒は“8位歴代最高記録”だった。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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