ミラン本田「活躍して当然」からの出発=熱烈評価と冷ややかな視線の間で

神尾光臣

「本田はわれわれのジョカトーレになる」

1月のミラン加入が発表された本田。低迷が続くチームを救えるか。背番号10を託され、即戦力として期待される 【Getty Images】

 12月11日、イタリア・ミラノの中央駅近くにあるレストラン『ジャンニーニ』。アドリアーノ・ガッリアーニ副会長を筆頭に、ミランの関係者御用達(ごようたし)として知られる高級レストランである。衝撃の発表がなされたのは、この日の晩に開催されるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のミランvs.アヤックス戦を前に、アヤックスのクラブ幹部を招いた昼食会が催される、そのときだった。このタイミングを狙った地元記者が、ガッリアーニに強化方針や獲得選手などに関する質問をぶつけたところ、ガッリアーニ本人が、これまで明言を避けていた本田圭佑の獲得を明らかにした。

「もう公に話していいだろう。われわれは契約書をまとめ、それを今日まで公表せずにおいたが、今は言える。本田は1月3日から、われわれのジョカトーレ(イタリア語で選手の意味)になる。背番号は10番で、それも契約条項の中に入っていた。契約を交わしていたことは内密にするよう、(提出先の)イタリアサッカー協会にも申し入れていたのだが、それも今日から解くことができる。
 彼はまず日本に帰り、労働ビザを取得する。6日(セリエA第18節のアトランタ戦)にデビューできるかどうかは分からない。EU(欧州連合)圏外の選手なので(短時間での書類準備は)大変難しいからだ。間に合わなければ、12日のサッスオロ戦が彼のデビューとなるだろう」

 クラブは本田獲得をHPなどで公式に発表していない(ガッリアーニの上記コメントを伝えたのみ)ものの、それは3日に移籍市場が開いて、選手登録が可能になるのを待つという形式上のものだ。事実上、本田はミランに移籍することになった。

移籍決定の筋書きは夏に決まっていた

 本田に関しては、今夏のミラン移籍が失敗になったことは周知の通りだ。しかし、今回の移籍決定の筋書きはそのときに成立していた。両陣営は、本田とCSKAモスクワの契約が切れる2014年1月以降について、4年の契約をすでに結んでいた。二重契約には該当しない。国際サッカー連盟(FIFA)規約の「選手の地位および移籍に関する規則」18条3項において、「所属チームとの契約が満了するか、もしくは残存期間が6カ月を切った場合にのみ、プロ選手は他のクラブと自由に契約を結ぶことができる」と保障されているからだ。

 こうして最低限、1月には本田を移籍金ゼロで獲得することを確約させたミランは、欲を出して夏の移籍にも乗り出した。もっとも自らの頭上を飛び越えて移籍金収入のハシゴを外されただけでなく、すでに1月以降の移籍に合意した事実をちらつかせて、ガッリアーニが交渉の場に現れようともしない態度に、CSKAのエフゲニー・ギネル会長は心証を害した。結局、交渉は夏にはまとまらなかったのだが、そのことをもって1月以降の合意まで破棄になったというわけではなかった。10月末、冬の戦力補強について記者から質問を受けたマッシミリアーノ・アッレグリ監督は「(アディル・)ラミーと本田は1月に来る」と語っていたが、そのことが合意の事実を物語る。

 ただし、「交渉にあたったクラブ(つまりミラン)は礼儀を欠いていた」と公言したギネルをこれ以上刺激しないよう、本田の契約満了までクラブとして公に発表することを控えていたようである。特に夏の間いろいろと放言が続いたガッリアーニは、CSKAとパイプがあり仲介役となっていたウンベルト・ガンディーニ渉外部長から、クギを刺されていたそうだ。だがCSKAでの契約期間中における公式戦が終了したことに伴い、紳士規定も終了した。「もうガンディーニから怒鳴られることはないだろう」とガッリアーニは語った。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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