ミラン本田「活躍して当然」からの出発=熱烈評価と冷ややかな視線の間で

神尾光臣

評価を高めたイタリア戦でのプレー

コンフェデ杯イタリア戦のプレーが本田の評価を高めた。本田はPKで1得点をマーク。攻撃センスだけでなく、フィジカルの強さも見せつけた 【Getty Images】

 では、加入が決まった本田についてイタリア国内ではどう評価され、ミランに加入するにあたって、何が期待されているのだろうか。地元メディアでの反応を見る限りでは、熱烈に評価する識者がいる一方で、冷ややかに見る者もいる。その割合は半々といった様子だ。

 CSKA時代にインテルやパレルモと対戦したこともあり、知名度はそれなりにはあった。だが、何より高い関心を引きつけたのは、イタリア代表と対戦した6月のFIFAコンフェデレーションズカップだ。攻撃センスのみならず、フィジカル面でもアズーリのMF陣を振り回していた様子を目の当たりにし、「実質彼がリーダーだし、プレーにはカリスマ性もある。間違いなくミランで通用する」とべた褒めした記者も数人いた。その一方で、「本田は通用するさ。かつてのようなスター軍団ではない今のミランならね」と冷やかに語り、「中村俊輔や、あの中田英寿でさえも1シーズン通してクオリティーを持続できたわけではなかった。本田が評価を受けるためにはそうならなければならない」と注文を出したベテラン記者もいた。

 しかしファンにとって大事なのは、前評判よりも実戦で活躍するかどうかである。チームを取り巻く目は厳しい。第15節終了の時点で、ミランは首位ユベントスから勝ち点22もの差をつけられて9位と低迷。不振の原因についてミランのサポーターは、夏の間に効果的な補強ができなかったフロントをやり玉にあげた。「8月28日、DF1人と中盤1人が必要だとわれわれは訴えた。しかし、貴様らの答えは『ファンがメルカート(移籍市場)をやるわけではない』。すべてが明白、これが答えだ」。11月2日のフィオレンティーナ戦でゴール裏に掲げられたメッセージだ。ここでいう中盤とは、ボランチとしてゲームを組み立てられる選手のことだ。トップ下として、やや彼らの希望とは異なる本田が仮に活躍できなかった場合、彼を引っ張ってきたガッリアーニに対する反発は間違いなく大きなものになるだろう。

即戦力としての活躍しか道はない

 ファンだけではない。開幕から4カ月で、強化方針をめぐってフロントの中でも反発が大きくなっている。シルビオ・ベルルスコーニ会長の次女で、昨シーズンからフロントに入っているバルバラ・ベルルスコーニ女史が、現在の強化体制について「強化費用は決して抑えられているわけではなく、しかも使い方も悪い。方針を変える必要がある」と実父の会長に直訴。「ガッリアーニを辞めさせろと訴えた」という報道までなされた。名指しで批判されたクラブナンバー2は激怒。一度は今年限りの辞任を宣言するという事態にまで陥った。

 ともかくバルバラは強化方針について、アーセナルさながらのスカウト部門を整備し、若くて才能のある選手の発掘を基本路線とすることを希望していると伝えられている。その点で言えば、現時点で27歳の本田は決して若くはない。近い将来、クラブの実権を握ると言われている女幹部を納得させるには、やはり即戦力としての活躍しか道はなさそうだ。

 近年は落ち目と言われるミランであっても、ビッグクラブとしての注目度は群を抜く。「活躍して当然」というプレッシャーがかかる世界で、本田は即戦力として爪痕を残すことができるか。まずはそこに注目していきたい。

<了>

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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