苦難乗り越えた女王V3と12歳の新星誕生=全日本選手権に見た新体操の希望

椎名桂子

全日本新体操選手権で3連覇を達成した山口留奈。しかし、今季は苦難の連続だった 【榊原嘉徳】

 2013年のシーズンを締めくくる全日本新体操選手権が、11月22〜24日、国立代々木競技場で行われた。女子の個人総合で優勝を飾ったのは、61.300点をマークした山口留奈(イオン)。これで01〜06年に6連覇を果たした村田由香里以来の3連覇達成となった。
 今大会での山口は、種目によってはいくつかのミスがあったものの、そのいずれも大きく演技が崩れることのない範囲で処理した。個人総合では全種目1位となる完全優勝を果たし、「女王の貫録」を見せつけた。

 この結果だけを見れば、「当然の優勝」と受け取る向きもあるだろう。しかし、今シーズンの山口にはいくつかの危機的状況があった。そのことを思えば、よくぞ耐えての全日本3連覇だった。

深みを増した山口の表現力

 最初の苦難は、シーズン開幕早々に訪れた。世界選手権代表決定戦が4月に行われる予定だったが、大会まで1カ月もない時期になって、選考会の実施が見送られた。当初「4」とされていた代表枠が「2」になったためで、すでに派遣が内定していた特別強化選手でロシア留学中の2人(早川さくら、皆川夏穂=ともにイオン)だけが代表になったのだ。おそらく大きな目標だったろう世界選手権への道が、戦わずして閉ざされた。山口をはじめとした代表決定戦の出場資格をもっていた選手たちは、どれほどの喪失感を味わったことか、想像に難くない。

 それでも、今シーズンの山口は、極度のスランプに陥るでもなく、8月には全日本インカレで2位に入った。さらに全日本クラブ団体選手権で優勝を収め、9月のイオンカップの出場権を手にしたが、同じイオン所属の早川、皆川が帰国して出場することになり、山口の出場はならなかった。
 シーズン中に2度も、目の前の大きな目標を閉ざされる。それも自分の力不足ではなく、運や方針などのせいで。自暴自棄になっても無理はない――そんな状況だった。

 しかし、どんな苦難も乗り越えられれば「意味」を持つ。今シーズンから導入された新ルールでは表現力が重視され、表現力不足を指摘されがちだった山口にとっては逆風かとも思われた。しかし、ここ数年の多くの経験で得た明るさや強さ、哀しみ、怒りなどの感情に裏打ちされた表現力が、たしかな技術力と相まって、確実に深みを増してきていた。

無駄にならなかった苦しい3年間

 高校3年生でいきなり世界選手権代表の座を勝ち取ったときは、精密機械のように正確な技術が高く評価されて期待されたが、人の心を揺さぶる演技をするのに、当時の山口は年齢も経験も不足していた。あれから3年。もしかしたら山口にとっては、つらいことのほうが多い日々だったかもしれないが、その苦しい時間は無駄ではなかったと思える領域に今、彼女は達しつつある。
「『3連覇は自分の演技をしっかりやれればできる。(3連覇を)取りたい!』と思っていたので、素直にうれしい」と試合後の山口は笑顔を見せた。

「今年はいろいろなことがあって、いろんな思いもあった。落ち込んだこともあったが、新体操を続けている以上、プライドを持って勝っていきたいと思っていた」 
 彼女が口にした“プライド”という言葉。おそらくそれは、何度となく踏みつけられてきたのではないか。だからこそ、あえて彼女は「プライドを持つ」覚悟を決めた。その結果、演技の面での成長もさることながら、精神的にも大きく成長し、大会3連覇を成し遂げたのだ。

 今大会は、個人総合2位に中学1年生の喜田純鈴(エンジェルRG・カガワ日中)が入り、種目別決勝では、フープ、クラブの2種目で山口を抑えて優勝をもぎとった。自分よりもずっと若い、そして力のある選手たちから追われる身になったことを、どう感じているのか。
「プレッシャーは感じるが、それを乗り越えられれば、自分ももっと強くなれると思う。下から強い選手たちが上がってくるという刺激を自分のパワーにしていきたい」
 山口は凛としてそう答えた。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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