苦難乗り越えた女王V3と12歳の新星誕生=全日本選手権に見た新体操の希望
中学1年生の喜田が衝撃のデビュー
中学1年生の喜田純鈴が2位に入り、会場は驚きと興奮に包まれた 【榊原嘉徳】
今大会で、喜田の最初の演技はボールだったが、落下が相次ぎ12.700。なにせ中学1年生だ、無理もないと思わせる演技であり点数だった。ところが、2種目目のフープでは、体より大きく見えるフープを全身で扱い、体が吹っ飛ぶのではないかと思うほどのスピード感にあふれる、見事な演技を見せた。こうなると、ずば抜けた身体能力を持ち、他の選手が苦労している難度もやすやすとこなす喜田に、得点が出ないはずはない。14.200。出場選手中4番目の高得点だった。
2日目になると、喜田の勢いはさらに加速。リボンは、演技冒頭でスティックを落としたが、それ以降はミスらしいミスもなく、小さな体ながらリボンの長さを感じさせない巧みな操作を見せた。常に踊り続けるという熟練度と芸術性の高い演技で、山口以外の選手で唯一の15点台となる15.200をマーク。そして、奇しくも女子の最終演技者となったクラブでは、超人的とも思える高難度と複雑な手具操作を躊躇(ちゅうちょ)なくこなし、14.150。リボンとクラブは出場選手中2位の得点で、総合でも2位に入った。喜田の演技終了後、会場は茫然とした空気に支配されていた。そして、徐々に「すごいものを見た」という興奮に包まれた。この日、会場にいた人たちは、日本が待ち望んでいた破格の逸材の全日本デビューを目撃した。その驚きと興奮が、会場の空気から十分に感じられた。
期待される“東京五輪の星”
試合後、喜田は初日のミスを冷静に分析してみせた。“東京五輪の星”と期待されることについては、「五輪まであと7年あると思うときついかもしれないが、出たい気持ちが強いので頑張りたい」と前向きにコメント。その第一歩となる来シーズンは、「もっと曲にのって踊れるようになりたい。表現ももっと大げさなくらいに、自信を持ってできるようになりたい」との目標を掲げた。
東京五輪まで7年。喜田の登場に、期待はいやがおうにも高まる。だからこそ「大事に育ててほしい」と願わずにはいられない。
<了>
(取材・文:椎名桂子)