苦難乗り越えた女王V3と12歳の新星誕生=全日本選手権に見た新体操の希望

椎名桂子

中学1年生の喜田が衝撃のデビュー

中学1年生の喜田純鈴が2位に入り、会場は驚きと興奮に包まれた 【榊原嘉徳】

 10月に行われた全日本ジュニア選手権で初優勝した12歳の喜田は、従来の規則では15歳以下に全日本選手権の出場資格がなく、年齢が足りなかった。しかし、20年の東京五輪を見据えてか、今年から年齢制限が撤廃され、喜田は全日本に出場できることになった。年齢も体もまだ小さな選手が、全日本に出ることだけでも大きなインパクトがあり、衝撃を与える演技を見せてくれれば、と期待はしていた。しかし、まさか、ここまでの快進撃を見せるとは……。喜田のポテンシャルは予想を大きく上回っていた。

 今大会で、喜田の最初の演技はボールだったが、落下が相次ぎ12.700。なにせ中学1年生だ、無理もないと思わせる演技であり点数だった。ところが、2種目目のフープでは、体より大きく見えるフープを全身で扱い、体が吹っ飛ぶのではないかと思うほどのスピード感にあふれる、見事な演技を見せた。こうなると、ずば抜けた身体能力を持ち、他の選手が苦労している難度もやすやすとこなす喜田に、得点が出ないはずはない。14.200。出場選手中4番目の高得点だった。

 2日目になると、喜田の勢いはさらに加速。リボンは、演技冒頭でスティックを落としたが、それ以降はミスらしいミスもなく、小さな体ながらリボンの長さを感じさせない巧みな操作を見せた。常に踊り続けるという熟練度と芸術性の高い演技で、山口以外の選手で唯一の15点台となる15.200をマーク。そして、奇しくも女子の最終演技者となったクラブでは、超人的とも思える高難度と複雑な手具操作を躊躇(ちゅうちょ)なくこなし、14.150。リボンとクラブは出場選手中2位の得点で、総合でも2位に入った。喜田の演技終了後、会場は茫然とした空気に支配されていた。そして、徐々に「すごいものを見た」という興奮に包まれた。この日、会場にいた人たちは、日本が待ち望んでいた破格の逸材の全日本デビューを目撃した。その驚きと興奮が、会場の空気から十分に感じられた。

期待される“東京五輪の星”

「(全日本2位は)びっくりしたけど、自信になった。今回の試合は、出るだけもすごい試合だったので、プレッシャーはなかった。最初のボールでミスが出たのは、緊張していたというより、練習のときから不安定だったのが出てしまった」
 試合後、喜田は初日のミスを冷静に分析してみせた。“東京五輪の星”と期待されることについては、「五輪まであと7年あると思うときついかもしれないが、出たい気持ちが強いので頑張りたい」と前向きにコメント。その第一歩となる来シーズンは、「もっと曲にのって踊れるようになりたい。表現ももっと大げさなくらいに、自信を持ってできるようになりたい」との目標を掲げた。

 東京五輪まで7年。喜田の登場に、期待はいやがおうにも高まる。だからこそ「大事に育ててほしい」と願わずにはいられない。

<了>

(取材・文:椎名桂子)

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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