真面目なブラジル人・ケンペスの覚醒=スタメン落ち後にみせた献身的なプレー

菊地正典

3試合5ゴールで月間MVPを受賞

10月のリーグ戦3試合で5ゴールをあげたケンペス。熊本戦ではハットトリックを記録するなど爆発した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

「調子はどうですか?」

 話のつかみとしてそう聞いたのは11月上旬のことだった。「素晴らしい状態だ」ケンペスはそう言いながら白い歯を出して笑った。

 10月はリーグ戦開催3試合すべてでゴールをマーク、第37節(10月20日)のロアッソ熊本戦ではハットトリックを決め月間5ゴールを記録。月間MVPを受賞するに十分な成績と言える。第40節までを終了した時点で22得点はJ2の得点ランキングで堂々トップ。16得点で2位の宇佐美貴史(ガンバ大阪)はシーズン途中での加入であり、またシーズン前半に首位を争っていた元G大阪のレアンドロが夏にカタールのアル・サッドに復帰したという事実はあるものの、今季のJ2得点王をほぼ手中に収めている。

 大活躍だった10月、なかでも大きかったのは第36節(10月6日)ヴィッセル神戸戦のゴールだろう。チームは3連敗している中で迎えた当時首位との一戦。千葉は、序盤からそれまでの試合が嘘のように良い戦いを見せた。神戸に先制を許したが、ケンペスは米倉恒貴のクロスを背後から相手より頭ひとつ抜け出す自慢のヘディングでつないで田中佑昌の同点ゴールをアシスト。さらに左サイドでボールを受けると、先制点を決めた神戸・小川慶治朗をかわしてシュート。利き足ではない右足のインフロントに掛かったボールは弧を描くように相手GKを越えてゴール右に吸い込まれる。ワールドクラスのスーパーゴールでチームを勝利に導いた。

 試合後、殊勲のケンペスのもとに記者が集まる。するとケンペスはまずこう言った。

「自分のゴールで勝てたのではなく、チーム全体で得た勝利だと思う」

 もちろん、得点後、2枚目のイエローカードをもらい退場した申し訳なさもあったのだろう。だが、この試合に限らずケンペスは二言目には「自分がゴールしたことよりもチームが勝ったことがうれしい」と話す。ブラジル人特有の陽気なタイプではなく、根っからの真面目。チームメイトにも「ケンペスはいいやつ」と言われるほどだ。

9月末に初のスタメン落ちを経験

 ただ、性格とプレーが合致しないのがスポーツであり、サッカーだ。特にシーズン前半、ケンペスの“貢献度”は非常に低かった。得点こそするものの、率直に言ってしまえばそれだけ。決して動かないわけではないが、周囲のために献身的に動くことはない。前線からの守備はしないし、ボールが収まらない。攻撃の起点にもなれなければ、守備のスターターになれるわけでもない。3月の時点で「チームに得点で貢献したいけど、いつもシュートを打てるわけではないので、守備を頑張ったり、動き出すことでも貢献できればと思っている」と話していたが、その考えがプレーに表れているとは言いがたかった。いわば得点するかどうかの“オール・オア・ナッシング”。得点も数こそ多いものの、勝負を決めるゴールよりもチームがリードしてからの得点が多く、決してコンスタントにゴールを決めるタイプでもなかった。

 そして特に夏場には運動量はもとよりコンディション自体を落とし、6月から8月は14試合で3得点。うち得点を挙げたのは2試合だけであり、6月から7月上旬にかけては5試合ノーゴール。7月下旬から8月いっぱいも7試合ノーゴールだった。9月に入るとアビスパ福岡戦でハットトリックを達成するものの、以降2試合はノーゴール。そしてチームが連敗したこともあったが、9月29日の第35節、ファジアーノ岡山戦では負傷ではないスタメン落ちを味わった。

「チームが良くない時は変化をつけないと流れが良くならないこともある。それで流れが変わるなら良い。前節も前々節も自分のプレーは良くなかったので、もしベンチスタートでも受け入れるしかない」と理解しつつも、「ピッチに立ちたいのは誰もが同じだし、ベンチになれば悔しい」と唇を噛んだ。

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著者プロフィール

福島県出身。埼玉大学卒業後、サッカーモバイルサイトの編集・ライターを経てサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として活動し、横浜FC、浦和レッズ、ジェフユナイテッド市原・千葉、横浜F・マリノスの担当記者を歴任。2020年からはフリーランスとして活動している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』、『トリコロール新時代』(ともにELGOLAZO BOOKS)がある。

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