真面目なブラジル人・ケンペスの覚醒=スタメン落ち後にみせた献身的なプレー

菊地正典

スタメンに復帰した10月、別人のようなプレーを見せる

 スタメン落ちした翌週の試合が前述の神戸戦である。チームは3連敗の後、岡山戦にスタメン出場した選手に限ってではあるが、試合のVTRを見ながら選手のみでミーティングを行い、戦術、方向性をすりあわせた。それは攻守の切り替えを速くして前線からプレッシャーを掛けることであり、素早くシンプルに裏を狙うことだった。これはいずれも最前線のケンペスが機能しなければ叶わない。そしてそれは、シーズン前半、そして夏場のケンペスにはできていないことだった。

 しかし、神戸戦のケンペスは違った。しっかりと前から追って相手の攻撃の選択肢を減らす。くさびのボールが来れば足元で収めて展開し、裏に抜け出してはロングボールを得意のヘディングで競り勝つ。そして前述の通り、全2得点に絡んだ。それはその後の熊本戦、横浜FC戦(10月27日)でも同様だった。熊本戦ではクラブ史上初となるシーズン3度目のハットトリックを達成し、横浜FC戦では決勝ゴール。自らのゴールとともに、チームも3連勝を果たした。得点以外でもチームに貢献する上、大事なゴールを挙げる。時に仲間から不満を買うこともあったケンペスだが、今は「ケンペスが前から追ってくれるから」、「ケンペスが収めてくれるから」という声がよく聞かれるようになったことが、彼のプレーが変わった何よりの証拠だ。10月の月間MVPはおそらく、3試合で5得点という結果に対して贈られたものだろうが、得点だけではなく、それ以外での貢献こそが月間MVPにふわさしいと言っても言い過ぎではないだろう。

J1昇格にはケンペスの活躍が必要

 ともすれば少しは鼻が高くなってもいいものだ。だがやはり、プレーは変わっても人柄は変わらない。3試合5得点という結果には「自分だけじゃなくてチームの調子も上がっている。ゴールできているのもチーム全体のサポートのお陰だ」と言えば、「ここ最近は山口慶くんが良い動きをしてくれている。彼のようにチームのためにプレーしてくれる、前線も助けてくれるような選手は心強い」と10月下旬からレギュラーになった山口を称賛し、守備についても「(町田)也真人とはここに来たばかりの時からコミュニケーションをよく取っていたので、彼が最近、試合に出るようになってやりやすくなった。2人の連係がうまくいっているから守備もやりやすい。心強い仲間だ」と自身ではなく仲間のお陰だと言う。

 しかし、順風満帆な時はそう長くは続かなかった。11月に入ると2試合ノーゴール。チームも連敗を喫した。第40節のV・ファーレン長崎戦では4位と5位の直接対決で敗れ、昇格プレーオフ1回戦をホームで戦える4位の座から転落した。それ以前に10月の3連勝で安泰だと思われた昇格プレーオフの出場権も7位、8位と勝ち点差4ポイントと油断できない状況になった。チームの目標は昇格プレーオフに出場することではなく、あくまで昇格すること。リーグ戦残り2試合、そして決勝に進出するならばプレーオフ2試合で勝ち続けるしかない。勝ち続け、昇格するためにはケンペスの活躍は欠かせない。
 
 調子を落としていた時期には「ヒーローインタビューもないし、記者のみなさんも話を聞きに来てくれないから寂しい」と肩を落としていたケンペス。残り2試合、そしてプレーオフで活躍すれば、否応なしに話を求められるはずだ。そして、その姿が見られることをサポーターは望んでいるに違いない。

<了>

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著者プロフィール

福島県出身。埼玉大学卒業後、サッカーモバイルサイトの編集・ライターを経てサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として活動し、横浜FC、浦和レッズ、ジェフユナイテッド市原・千葉、横浜F・マリノスの担当記者を歴任。2020年からはフリーランスとして活動している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』、『トリコロール新時代』(ともにELGOLAZO BOOKS)がある。

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