中村俊輔が示したボランチとしての才=攻守に奮闘し、横浜FMを再び首位に導く

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流れを変えた微調整

中村(写真)が卓越した戦術眼でチームを微調整。これが功を奏し1−0で勝利。首位攻防戦に勝利した 【Getty Images】

 後半10分、齋藤学の強烈なシュートが決まり、横浜F・マリノスが均衡を破ると、中村俊輔は喜びを爆発させた。
「相手の5バックが3バックになる瞬間を狙っていた。(DFの)人数が多ければいいというわけじゃない。そこをうまく個で突いたのはさすが“和製メッシ”(齋藤の愛称)だなと」

 10月19日に行われたJ1第29節、首位・サンフレッチェ広島との直接対決。ホームで戦う横浜FMは序盤から苦戦を強いられていた。攻守にアグレッシブな広島は21分、青山敏弘からのロングスルーパスに石原直樹が抜け出し、GK榎本哲也と1対1になる決定機を迎えるなど、チャンスを作った。4−2−3−1のトップ下で先発した中村は、守備に回る機会が多く、献身的な働きでチームを盛りたてていた。

「マルキ(マルキーニョス)が前からプレスに行きたがっていた。俺も行ったけど、広島はストッパーの2人とボランチでボールを回してくる。Jリーグではそういうチームはあまりない。ハーフタイムにマルキと『前掛かりじゃないか』と話した。ハーフラインの少し後ろくらいに位置を取って、ボランチを見る感じにしようと」

 その微調整が功を奏した。広島は前半、ダブルボランチの1人がやや前目にポジションを取り、パスワークを円滑にしていた。しかし、後半は横浜FMのマークがついたことによりスペースがなくなり、2人(青山、森崎和幸)が同じラインに並ぶようになったのだ。「あれで楽になった」と中村は振り返る。「ボランチから高萩(洋次郎)君や石原(直樹)君に入って、ミキッチに展開するのが向こうのパターン。でもそれがミスにつながっていたし、我慢していると良いことが起きる」。その言葉どおり、耐えていた横浜FMは中村を起点とした攻撃から、奈良輪雄太、齋藤とつなぎ、決勝ゴールが生まれた。1−0で勝利した横浜FMは、広島を抜き首位に再浮上した。

より洗練された戦術眼

 首位攻防戦というシーズンの大一番で際立ったのは、中村の戦術眼だった。右MFで今季3度目の先発となった佐藤優平は、中村から試合前にアドバイスを受けたという。
「対面する清水(航平)選手は守備の仕方が難しい。早い段階でクロスを上げてくるし、くさびを入れるのがうまい。そういう情報を俊さんからもらった。俊さんのアドバイスどおりにやると守備がうまくいく」

 出場停止のドゥトラに代わり左サイドバックで今季2度目の先発となった奈良輪には、こんな助言を送った。「(対面する)ミキッチの対応は『とにかく抜かれなければいい』と言った。遅攻にさせれば(齋藤)学や、カンペー(富澤清太郎)を行かせると。そういう戦術や個人のことを言いながら、『大丈夫だから』と伝えた」。中村のアドバイスどおりに動いた奈良輪は、相手のキーマンにほとんど仕事をさせず、途中交代に追いやった。

 広島の佐藤寿人は、奈良輪に対する称賛を述べつつも、横浜FMの弱みとなる部分を突けなかったことを悔やんだ。
「奈良輪選手は与えられた役割をよくこなしていた。ただ逆に、まだ試合に慣れていない時間帯に意図的に突いても良かった。そこに対するパスが少なかったと思う。うまく守られていたけど、ミキッチの仕掛けをもっと増やしたほうが良かったなと」

 前述したマルキーニョスとのやりとりを含めて、中村がピッチ上の監督としていかにチームのピンチを未然に防いでいるかがうかがえる。試合前から相手の特徴を味方に伝え、試合中もその時々の状況を冷静に分析して最適解を導き出すその頭脳は、経験を重ねるにつれてより洗練されたものとなっているのだ。

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