中村俊輔が示したボランチとしての才=攻守に奮闘し、横浜FMを再び首位に導く
ポジションを下げることによって生まれるメリット
中村の高い戦術眼や危機察知能力にはボランチへの適正を感じる。 【Getty Images】
もちろんポジションを1列下げるとしたら守備面での不安は残る。元来、線が細い中村は競り合いやボール奪取を苦手としている。そのため、もしボランチやセントラルMFで起用する場合は、パートナーは守備に持ち味がある選手でなければならない。日本代表で言えば、細貝萌(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)や山口螢(セレッソ大阪)といった選手たちだ。それでも、優れたボールテクニックやパスセンス、試合の流れを読む卓越した戦術眼を備える中村を中盤の底で使うメリットは大きい。ロングパスによるカウンターが可能となり、ポゼッションの質も飛躍的に向上するだろう。事実、広島は引いた位置でゲームを組み立てる中村の対処に苦慮していた。下手にボールを奪いに行くと簡単にマークを外されてしまう。うかつにプレスに行けない広島はどうしても引き気味にならざるを得ず、たとえマイボールにしても、攻撃に人数をかけてパスを回すことができなかったのだ。
また、中村は危機察知能力が高い。これは試合の状況が読めているからこそ、察知できるものであって、ボランチやセントラルMFには必須の力。この試合でもそれが至るところで発揮されていた。とりわけ前半15分のシーンはチームを救うプレーとなった。広島の佐藤寿が横浜FM陣内でDFのクリアをブロックすると、そのこぼれ球を石原が拾い、後ろから走り込んできた高萩にスルーパスを出す。ペナルティーエリア付近で高萩がフリーとなったが、全速力で戻ってきた中村のプレッシャーにより、高萩のシュートミスを誘った。「前半の早くに先に1点取られると苦しくなるし、無失点でいけたのは大きかった」と中村が振り返ったように、隠れたファインプレーだった。
新たな可能性を見いだしておくべき
マンチェスター・ユナイテッドで現在、選手兼コーチを務めているライアン・ギグスは、若いころは切れ味鋭いドリブルを武器としていたウインガーであった。しかし、フィジカルの衰えとともに、ドリブルにもキレがなくなると、30代前半を迎えたときにはしきりに放出のうわさがささやかれた。当時のアレックス・ファーガソン監督が考えを改めたのは、司令塔としての有用性が証明されたからだ。持ち前のインテリジェンスでプレースタイルを変えたギグスはセントラルMFのポジションで、多くのチャンスを作り出し、2008−09シーズンにはPFA年間最優秀選手賞に選ばれるなど、第二の春を謳歌した。
中村の場合、たとえボランチをやることになっても、プレースタイルを変える必要はない。そもそも昔からフィジカルではなく、テクニックやひらめきで勝負していた選手だ。技術や戦術眼は経験を積み重ねていく中で、より洗練されていく。おそらく監督に命じられれば、いまの中村なら、味方を巧みに動かしながら、そつなくこなすことだろう。
<了>
(文・大橋護良/スポーツナビ)