ダービーで完敗、高まる香川起用の声=開幕5試合でいまだピッチに立てず

寺沢薫

ダービーでも出場機会がなかった香川(左から2人目)。開幕から5試合、いまだリーグ戦ではピッチに立てず  【Getty Images】

 9月22日に開催されたマンチェスター・ダービーで、赤と青の間にはハッキリと明暗が分かれた。セルヒオ・アグエロが2ゴールをたたき込み、ヤヤ・トゥレ、サミル・ナスリもネットを揺らしたマンチェスター・シティに対し、マンチェスター・ユナイテッドは“ダービー男”のウェイン・ルーニーがFKで一矢を報いるのが精いっぱい。ユナイテッド加入後、プレミアリーグ全試合に出場してきたロビン・ファン・ペルシーが直前のケガによって初めて欠場した影響があったとはいえ、4−1というスコアは衝撃的だった。そして、この試合でも香川真司はベンチに座り、デイビッド・モイズ監督からお呼びがかかることはなかった。17日のチャンピオンズリーグ、レバークーゼン戦で今季公式戦初先発を飾った香川だが、プレミアでは開幕5試合でまだ一度もピッチに立つことができていない。

左サイドで候補の3番手

 開幕から5試合、新監督のモイズは4−2−3−1に近い4−4−2、つまり2トップを縦に並べ、両サイドにウイングを配する形で戦っている。最前線はもちろん昨季得点王のファン・ペルシー。その下にルーニーが入るのが基本形で、ルーニー、ファン・ペルシーのいずれかが欠場した3試合は、ダニー・ウェルベックが代役を務めている。

 サイドに関しては、ライアン・ギグスが先発した第3節リバプール戦以外、CLも含めて右はアントニオ・バレンシアの指定席だ。左は開幕戦がギグス、第2節がウェルベック、そしてここ3試合がアシュリー・ヤング。CLレバークーゼン戦のみ、香川がこの位置で先発している。つまり、攻撃陣で唯一レギュラーが定まっていない左サイド候補の1人に香川がいるわけだが、ここまでモイズはほとんど彼にチャンスを与えていない。コーチを兼任するギグスを「ジョーカー」とすれば、香川はヤング、ウェルベックに次ぐ3番手というのが客観的な位置づけだ。アレックス・ファーガソン政権下の昨季終盤、限りなく一番手に近づいていた香川が“降格”した理由は何なのか。モイズ監督は新チームを率いるにあたって「同じメンバーでやりくりする必要があった」と説明した上で、出場機会が少ない選手についてこう補足している。

「まだプレーをしていない選手が数多くいる。しかし、彼らのほとんどがコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)に出場し、さらにその後も代表の親善試合に参加し、合流が遅れた選手たちだ。長時間のフライトを経て代表に行っていたから、彼らを起用できなかった」

「シンジはチームへの合流が遅れた。それが彼にとって大きな問題になってしまった。日本でのツアーに合流し、試合に出場した後も、彼には1週間の休養を与えなくてはならなかった」

モイズの心に浮かんだ“現実主義”という言葉

 だが一方で、「フィットネスの問題だけが、モイズが香川を無視し続ける理由ではない」と分析するのが、『デイリー・ミラー』のデイヴィッド・マクドネル記者だ。0−1で敗れ、香川もベンチ外だった第3節リバプール戦後、同紙に掲載された記事を抜粋する。

「モイズが香川を冷遇することに関する唯一の結論は、彼がユナイテッドに望んでいるプレーに、24歳のMFが適合しないということ。チェルシー、リバプールとの連戦という厳しい序盤戦にあたって、モイズの心にはまず“現実主義”という言葉が思い浮かんだ。その結果、香川のようなプレーメーカーの居場所はなかった」

「(マルアン・)フェライニの加入も、香川にとってはいいニュースではない。彼のフィジカルは、モイズが進むつもりの道を示している。そしておそらく、ルーニー不在の場合はフェライニがファン・ペルシーの下でプレーするのだろう。香川はますます取り残されてしまう」

 厳しい論調にも見えるが、基本的にマクドネル記者は「香川起用」を望んでいる。
「なぜモイズは香川を使わないのか? アンフィールド(リバプールの本拠地)でインスピレーションやアイデアを欠いたユナイテッドには、この日、スタンドに座って試合を見ていた香川が持っているような狡猾(こうかつ)さや“(相手守備陣の)カギを開ける”スキルが必要だった」

 実は、こうした見解はイングランドでも非常に多い。今でも、批評家やファンの間で、香川への期待値は基本的に高いのだ。9月12日付けの『デイリーメール』では、元アーセナルのDFマーティン・キーオンが香川の起用法について意見を述べた。「香川がユナイテッドの攻撃に必要だと思いませんか?」というファンの質問に対し、キーオンはこう答えている。

「私は彼がもっと出場すべきだと思っている。シティのダビド・シルバ、トッテナムのパウリーニョのように、コンフェデ杯に出てもすでに活躍している選手はいる。彼は違いをもたらせる選手。ファン・ペルシーの下でプレーしたいかもしれないが、問題はそこにルーニーやフェライニがいること。香川は重心が低くて良い選手だ。スティーヴン・ピーナールを思い起こさせる。チャンスが訪れたら、それを確実にモノにしなければいけない」

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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