日本ラグビーに大金星呼び込んだ大学生=筑波大2年・福岡堅樹の失敗と成長

向風見也

ウェールズ戦に出場した20歳の快速ウイング

歴史的勝利に貢献した筑波大2年の福岡(左)。ウェールズ戦は2試合ともウイングで先発出場した 【写真は共同】

 2013年6月、ラグビー日本代表は2年連続欧州王者のウェールズ代表を迎えて2度のテストマッチ(国同士の真剣勝負)を行った。8日、大阪・近鉄花園ラグビー場での初戦を4点差で落とすも、15日に東京・秩父宮ラグビー場であった再戦は見事、快勝する。2万人超の観客は熱狂し、SNS上に現地の写真を次々と掲載。テレビのテロップや新聞の見出しには「歴史的勝利」「大金星」との言葉が踊った。相手が控え選手主体で、日本ならではの蒸し暑さに順応できなかったという現実は、取り上げるだけ野暮といった雰囲気である。

 ある意味、異常とも言えるそんな状況下、己の確かな成長を静かにかみしめる若者がいた。福岡堅樹。今回は2試合ともウイングで先発した、筑波大2年生のスピードランナーである。

 試合中、どんなことを考えていたか。身長175センチ、体重83キロ、サイドを刈り上げた短髪の細身で筋肉質な20歳は、小さな声で淡々と答えた。

「この気候を相手が嫌がっているのはずっと分かっていました。相手がきつくなるだろう、絶対にバテるだろう。その時間をうまく使ってジャパンのアタックができれば、勝機が出るかな、と」

浪人を経て1年遅れで大学ラグビーへ

 初めてジャパンに呼ばれたのは、今年の4月だった。3月中旬から約1カ月間、国内の若手育成を担う組織であるジュニア・ジャパンの一員としてパシフィック・ラグビー・カップ(PRC)に参戦。南半球最高峰のスーパーラグビー予備軍を相手に大敗し続ける中、現地視察をしたエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)に素質を認められたのだ。

 瞬発力を生かした走りは、福岡県立福岡高時代から長所としてきた。ただ、ブランク明けであるのも事実だった。卒業後は医者を目指して浪人も、まずは競技生活を優先すべく筑波大情報学群に入学。昨季、同級生より1年遅れで大学レベルでのプレーを始めたところである。

 急速なステップアップにも、本人は冷静だった。PRC終了後に合流した代表合宿では、世界基準における自分の長所と短所を客観的に分析していた。

「瞬間のスピードの部分では勝負できることも分かりました。まあ、相手を少し引き離すようなこともできたと思えたので。ただ、その後に走り合いになったときの加速は向こうの選手の方がすごい。もう少し対処の仕方を考えないといけないな、と思いました」

 4月20日から行われたアジア五カ国対抗では、それでもトライを量産できた。断ずれば、対戦国がやや格下だったからだ。それを踏まえてか、ジョーンズHCは「まだテストマッチプレーヤーとは言えないと思います」と、くぎを刺していたが、どうしても、ニューカマーを好む傾向にあるジャーナリストたちは俊足の若手を取り囲んだ。救いは、本人が勘違いをする性格ではなかったところか。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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