日本ラグビーに大金星呼び込んだ大学生=筑波大2年・福岡堅樹の失敗と成長

向風見也

第1戦で手痛い失敗、判断ミスからトライ許す

ウェールズとの第1戦では痛恨の判断ミスを犯したが、同じ過ちは繰り返さない。第2戦は鋭いタックルでピンチを救った。写真はアジア五カ国対抗の韓国戦 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 誰が見ても分かる失敗は、公式で「2万152人」のファンが集う花園でのウェールズ戦で起こった。日本代表が1点ビハインドで迎えた後半23分、自陣の中盤でボールを持った福岡は、前方にスペースがあると思ってキックを蹴り出す。しかし、弾道はあまり伸びなかった。落下地点には赤いジャージーの相手がそろっており、そのまま球をつないだ。ジャパンはトライとコンバージョンの計7点を献上してしまう。結局、18−22の4点差で敗れた。福岡は消え入りそうな声で「考え直したい」と誓った。

 もし、あのときに確実なボールキープをしていれば……。そんなことを思っても、後の祭りである。月並みではあるが、失敗を次に生かすしかあるまい。ジョーンズHCは「本来であれば、絶対にやってはいけないプレーです。でも、彼はそれをテストマッチの中で経験した。パワフルなレッスンだったと思います」とリベンジを促す。当時の心境やいかに。福岡自身は、後にこう振り返るのだった。

「中途半端なキックから相手にトライを取られて、負けてしまった。そういうのは絶対ないようにしようと。行くのなら、自分のスピードで思いっきり仕掛けようと思いました」

高い学習能力、鋭いタックルでピンチを救う

 15日、秩父宮。「中途半端」はやめよう。「パワフルなレッスン」を受けた快速ウイングは、その気持ちを走りに乗せた。球を得れば、そこが自陣でも持ち前の爆発力を披露。スタンドを大いに沸かせた。

 この日、チームは粘り強い守備でウェールズの大男を追い回したが、福岡もその象徴だった。後半3分、ウェールズに自陣ゴール前まで攻め込まれ、日本側から見て左へ、左へとパスをつながれた場面だ。大外でとどめを刺そうとする対面のハリー・ロビンソンに向かって、遠い位置から一気に間合いを詰める。鋭いタックルで、相手をタッチラインの外へ追いやった。ジャパンの背番号「11」がピンチを救ったのだ。

「前半、同じような形で1本、外に抜かれていたところがあった。後半は絶対に修正しようと思っていました」

 そう、前の試合の反省だけでなく、数分前の反省も生かすのである。指揮官からは俊足のほかに「聡明さ」も評価される福岡は言った。

「1試合、1試合、高いレベルを経験させてもらっている。出てきた課題は、次にもう一回出ることがないようにしようと、意識してやっています」

「大金星」、否、白星の裏には、学習能力高き若者の姿があった。

<了>

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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