大石達也、クローザー奪還への試行錯誤

中島大輔

地位奪還に必要なウイニングショットの確立

 クローザーの地位を取り戻すためには、ストレートの状態を上げることに加え、もうひとつ課題がある。ウイニングショットの確立だ。
 5月22日の広島戦で、大石は1点を追いかける8回から登板した。先頭打者の岩本貴裕には真ん中に抜けたフォークをセンターに打たれ、秋山翔吾が背走して好捕する。続く松山竜平の初球もフォークが抜けた。マウンド上の大石は、首をかしげていた。結局、外角低めのストレートで見逃し三振に仕留めたが、菊池涼介には真ん中に抜けたスライダーをレフト線二塁打とされる。2死二塁のピンチで打席に堂林翔太を迎えた。
 2ボール、2ストライクから投じたフォークはホームプレートの前でバウンドし、ボールになる。フルカウントからの7球目。捕手の星孝典はまたしてもフォークを要求した。外に抜けたフォークで堂林は空振り三振に倒れたが、なぜ抜ける危険性のある球種を投げさせたのか? 
「あそこでフォークを投げ切らないと、後ろはできません。調教ですね(笑)。後ろをやるなら、ウイニングショットがないと。最近は真っすぐに絞られて打たれていました。しっかりしたコントロールも大事だけど、それより結果が出て良かった」

捕手の星孝典「良いことも悪いことも糧」

 大石がクローザーを任されている頃、星はこんな話をしていた。
「力はあるんだから、ボールを投げることを怖がらないように。でも、ストライク先行で。シンプルに考えながら、いろんなボールを使う。真っすぐを生かすために、いろんなところにボールをばらまいて。去年より良くなっていますからね。良いことも悪いことも糧になっていきます。まだ発展途上。責任を感じながら、重圧は感じないでほしい」

 プロ入り1、2年目について、大石は「野球をやっている感じがなかった」と振り返る。それほど、自分の持っているものを発揮できていなかった。だが、今年は違う。
「開幕して『クローザーで行く』と言われたから、1年間やりたかったです。悔しい思いはあるけど、切り替えないと。サファテに調子が悪いときが来るかもしれないので、そういうときには自分が後ろでいけるようにアピールし続けます」

 まだ納得のいくボールを取り戻していないが、良くなっている感触はある。クローザーから役割が変わったものの、緊迫した場面で投げることに変わりはない。
 周囲の期待を受けながら、大石は前に進もうとしている。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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