オランダ杯決勝で描かれたコントラスト=優勝したAZとPSVを分けたもの
監督には時間が与えられている
AZがPSVを破り、KNVBカップで4度目の優勝を飾った 【VI-Images via Getty Images】
ホームチーム側のロッカールームの風呂は大きめに作られているものだ。試合後、AZのヘルトヤン・フェルベーク監督は選手にそこへ投げ込まれ、記者会見場には濡れた髪の毛のまま現れた。
他国同様、オランダでもカップ戦の地位はリーグ戦より低い。今季のAZは、KNVBカップ決勝戦の4日前にようやくエールディビジ残留を決める失意のシーズンを送っていた。現在、1節を残して順位は10位に過ぎない。びしょびしょになったスーツからジャージに着替えたフェルベーク監督は充実した表情でこのシーズンを振り返った。
「昨季のAZはリーグ戦で4位。しかも優勝争いに加わった時期もあった。KNVBカップではベスト4。ヨーロッパリーグではバレンシア相手にホームでは良い試合をして勝ったものの、アウエーでは歯が立たなかった。それでも欧州の舞台でベスト8に残った。それに比べると今季のAZは不振だったが、『失敗のシーズン』だったと問われると、それはどうだろう。昨季と違って、今季の我々はタイトルを獲得したんだ」
2009年、4カ月という短命監督に終わったロナルド・クーマン、そしてそのシーズンの後半戦だけの約束で指揮を獲ったディック・アドフォカートという例外はあるものの、コ・アドリアーンセ(2002−05)、ルイス・ファン・ハール(2005−09)、そしてフェルベーク(2010−)とAZの監督は目先の勝利だけでなく、チームを作る時間と、選手を育てる時間を与えられている。
決勝で躍動したマヘールとアルティドール
毎年、多くの主力選手を売ることで負債を減らしたAZは、その努力が実って今はもう管財人の手も離れた。またR・クーマン解雇とDSB銀行破産のダブルショックに襲われたシーズンですら、アドフォカート監督のリリーフにより5位とまずまずの成績で終え、フェルベーク監督就任後も2季続けて4位になった。それだけに今季の10位という成績には不満も募ろうというものだが、クラブ首脳陣はこの不振が監督の手腕によるものなのか、それともアクシデントなのか、そこを見極めた。今季、エールディビジの18チーム中、得失点差がプラスなのは7チームしかないが、そのうちのひとつがAZである。勝ち運こそ恵まれなかったが、サッカーの内容は決して悪くなかった。
KNVBカップの決勝戦では、MFアダム・マヘールとFWジョジー・アルティドールが、PSVのDFをドリブルでかわしながら鮮やかなゴールを決めた。マヘールはまだ19歳ながら、すでにオランダ代表でもデビューし、ロビン・ファン・ペルシーと息の合ったプレーを見せた。来季はPSVもしくはアヤックスに移籍することがうわさされている。フェルベーク監督は、「今こそ、アダム(マヘール)は移籍すべきだ」と語った。
「昨季、彼はAZから移籍することができなかった。今季はチームの成績が低迷した。アダム本人もサポーターから批判されたこともあった。こうしたことも経験し、彼は選手として成長した。だから、次のステップのためにアダムは移籍するべきだ。彼なら外国のクラブに行っても、試合に出続ける実力がある」
昨季、高い期待とともにAZにやって来て、早速15ゴールを挙げたアルティドールは、「彼はフットボールができない」、「高いレベルの試合では活躍できない」と評価が低かった。しかし、今季はその批判を黙らせる文句なしの活躍と成長を見せた。マヘールやアルティドールと違って、まだブレークを果たしきれてない選手もAZにはいる。そんな彼らにとって、KNVBカップというタイトルは大きな自信になるだろう。