オランダ杯決勝で描かれたコントラスト=優勝したAZとPSVを分けたもの

中田徹

得点力はすさまじかったPSVだが

リーグ戦、カップ戦ともに優勝を逃したアドフォカート監督は、退団することを認めている 【VI-Images via Getty Images】

 一方、クラブ100周年の今季に照準を合わせ、リーグ優勝を使命として戦って来たPSVは、アヤックスに優勝を奪われて2位。さらに『残念賞』のKNVBカップも獲れず、ヨハン・クライフ・スハールの1冠に終わった。

 かねてより「リーグに優勝ができなかったら私はPSVの監督を辞める」と言っていたアドフォカート監督は、公式に退団を発表してないが、決勝戦後、「これまでの私のコメントを振り返ればどういう去就になるか、分かるだろう」と事実上、退団を認めた。

 今季のPSVは、リーグ戦33試合で102ゴールとすさまじい破壊力を見せたが、あまりに守備が脆かった。今回、AZに奪われた2ゴールも、4バックの1対1の弱さと連係不足が如実に現れたもの。とりわけ、マヘールの独走を許した1失点目は、セントラルMFのマルク・ファン・ボメルとケビン・ストロートマンが自分のポジションを留守にして、相手にスペースを与え過ぎてしまった。

 以前にも「こういう守備をしていたら、私としても手が打てない」と選手に責を負わせる発言をしていたアドフォカート監督に対し、「その守備を作ったのはあなただろ」と厳しい問いが浴びせられたが、“小将軍”と呼ばれる指揮官は、「クラブを去る私がここで分析するのはふさわしくない」と返した。

 今シーズンを振り返ってみると、アヤックスの3季連続優勝は正当な結果なのだが、開幕直後の「今季はPSVが優勝候補の大本命」という評価を振り返ると、本当にもったいないシーズンを彼らは過ごした。守備さえしっかり整備していれば、こんな失意の1年にはならなかっただろう。

ビッグクラブの苦悩

 アドフォカート政権はわずか1シーズンで終わった。これでPSVは5シーズンも優勝から見放された。KNVBカップの決勝戦では今季デビューしたばかりのストライカー、ユルゲン・ロカディアが大奮闘を見せたが、実はPSVのユース育成部門では指導者や選手が「ここにいてはチャンスが少ない」と見て、ライバルチームのアヤックスへ移籍するケースが何件か出始めている。国内で憎たらしいほど強かったPSVの近年の体たらくは、クラブに「優勝しないといけない」というプレッシャーを生み、それが育成部門で必要な指導の継続性、トップチームでの出場機会の2つを失わせている。

 来季はUー19の指揮官を務めているフィリップ・コクーが、トップチームの監督に昇格する可能性が高い。また、ズウォーレを好チームに育てたアート・ランゲラー監督が、来季からPSVの育成部門責任者になることも決まっている。

 今、アヤックスはヨハン・クライフの掲げた『ビロード改革』を行っているが、それに近いことがPSVでも起こるべきという声も挙がっている。不本意なシーズンを過ごした2チームによるKNVBカップの決勝。それは不振の中でも長い展望を保って戦うAZと、リーグ優勝から遠ざかるビッグクラブの苦悩というコントラストが鮮やかに出た試合であり、結果だった。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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