初々しい勝負度胸、宮記念は◎松山弘平に託した=乗峯栄一の「競馬巴投げ!」

乗峯栄一

戦国武将のようにカメラいじっていると……

[写真5]坂路撮影塔を近くから見るとこんな感じだ 【写真:乗峯栄一】

「追い切り映像ってのはどこで撮ってるんですかねえ?」と、また横のGチャン・ディレクターにさりげなく聞く。
「坂路ゴール直前に緑色の塔が立ってるでしょう? あの2階、3階にいるんですよ」と言う。「ああ、あの坂路駐車場に近い、緑のトタンで覆われたような塔ねえ」と納得していると「行ってみます?」とディレクターが聞いてくる。
 ほんと、Gチャンネル・スタッフというのは、ぼくが何か撮影に貢献しているという訳でもないのに、親切この上ない。
 でも、ここはちょっとカッコつけないといけない。「あ、まあヤブサカではないですけど」と戦国武将のようにカメラいじっていると、そのディレクター、トランシーバーで「あ、坂路塔の藤井ディレクターですか? 乗峯さんがどうしてもそこ行きたいって言ってるんでけど」と言う。これにはちょっと焦った。いや、あの、どうしてもって事じゃないんだけど……。

[写真6]撮影塔の中はぎゅうぎゅう詰め、毎週ほぼ同じメンツだけに肉体問題が起こっても不思議はないぞ 【写真:乗峯栄一】

「えー! 来ますか? ギューギューですけど、どうしても来ますか?」と藤井ディレクターの返答がトランシーバーから聞こえてくる。「ええ、乗峯さんがどうしても行きたいって言ってききません」と横のディレクターが答える(いや、どうしてもじゃないんだけど)。
 そのあと、トランシーバーを置き「狭い所に人や機材がいっぱいだけど、何とか一人なら入れるかもしれないって言ってます」と教えられる。でもそこまで世話してもらったからには、行ってみないとかえって失礼になる。

肉体問題が起きても不思議じゃないぞ、危ない

[写真7]撮影塔から撮ったマジンプロスパー、見事に鞍上の頭が切れてしまった 【写真:乗峯栄一】

 坂路ゴール直前の“緑塔”はよく目撃しているけど、あそこで追い切り映像を撮っているとは知らなかった。トレセン通って20年だが、初めて行く場所だ。[写真4]はコース手前から遠く坂路を見る景色だが、左の黄色線で囲ったところが坂路上の調教師などが陣取る建物だ。その右、赤色線で囲っている所に緑色のトタンで囲まれた塔がある。ここが坂路ゴール直前の撮影塔だったのだ([写真5]はその拡大映像)。
[写真6]がその緑塔内部の映像だ。2階も3階もこんな感じだ。特にこの3階はGチャンネルのTVカメラが2台入っているから、足の踏み場もない雰囲気だ。しかも競馬誌のカメラマンも含めて、毎週ほぼ同じメンツでここに詰めているらしい。こんな狭い場所で、毎週顔を寄せ合って、これは肉体問題が起きても不思議じゃないぞ、危ない、というのがぼくの第一印象である。

 でもGチャン・藤井ディレクターは、この素人カメラマンに対して「邪魔だ、帰れ」などとは決して言わず、細かい機材を横に寄せて「ここへ」と一人分の“空き地”を確保してくれる。Gチャンだけでない。競馬ブックの長島カメラマンは撮影アドバイスをくれるし、2階にいた競馬エイトのベテラン・トラックマン鈴木由紀子さんはコーヒーまで差し入れてくれる。何だか感動してしまった。

撮影塔に行ってみたことは大きな経験に

[写真8]右側の馬がおそらく高松宮記念大本命のロードカナロアだと思う 【写真:乗峯栄一】

 しかし、さすがにこの場所での撮影はテクニックがいる。遠く坂下にいるときは望遠で撮ることは出来るが、小さすぎる。近くに来て、坂路ゴール手前になると大きくは撮れるが、あっという間に通り過ぎるから、馬を真ん中に収めるのが非常に難しい。あと、坂路上で撮るのと違って、正面からの撮影になるからゼッケン番号がよく分からない。ディレクターの「××、いまカーブ曲がって出てきました」という案内をよく聞いてメモしておかないと、あとで「これ、何ていう馬だった?」と大きく悩むことになる。

[写真9]これはまあマシな映りとなったツルマルレオン 【写真:乗峯栄一】

 そんなことで撮った[写真7]がマジンプロスパー(見事に鞍上の頭が切れている)。[写真8]の右側が恐らく一番人気のロードカナロア(左は併走のオーセロワ)だ。もっと近くでも大写しのやつを撮ったんだけど、見事に枠の片側に寄って、どれが主役の写真だか分からなくなっている。
[写真9]はバルジュ鞍上のツルマルレオンで、この写真はまあマシな方だろうけど、いまのところ偶然の産物としか言えない。

 でもしかし、この撮影塔に行ってみたことは大きな経験だった。次からも狭いところ掻き分けて入り込むかどうかは(ほかの人たちの迷惑にもなるし)まだ思案中だが。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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