“世界標準”見据えて感じた期待と戸惑い=3得点快勝も日本が露呈した遠藤依存

宇都宮徹壱

8年ぶりの対戦となるラトビア

2013年の初戦となったラトビア戦は、本田(右)と岡崎の2ゴールで快勝した 【写真は共同】

 2013年の日本代表が最初に対戦するラトビア。05年10月8日に首都リガで対戦して以来、実に8年ぶりの顔合わせとなる(結果は2−2の引き分け)。この試合を含めて都合3回、ラトビアを訪れた私の経験に即して言えば、かの国の人々の国民性は実直かつ勤勉、ということに尽きる(北方の小さな国でよく見られる傾向である)。そうした国民性をフルに生かした、堅実なディフェンスと旺盛な運動量を武器に、彼らは04年にポルトガルで行われたユーロ(欧州選手権)に出場を果たしている。結果は1分け2敗のグループリーグ敗退であったが、優勝経験3回を誇るドイツと引き分け、さらに当時全盛期にあったチェコから先制ゴールを奪うなど、期待以上のインパクトを残したことは特筆すべきであろう。

 代表チームを率いているアレクサンドルス・スタルコフス監督は、04年にラトビア代表を率いた監督で、ユーロの後に一度退任し、07年から再びチームを指揮している。試合前日の会見で「04年のチームと比較して今のチームをどう評価するか」と質問すると、「あれから随分と時が流れた。昔のチームの思い出に浸りがちなところもあるが、(当時と)比較して良いところも悪いところもあると思う」と、何だか煙に巻かれたような答えが返ってきた。ちなみに、現在行われているワールドカップ(W杯)のヨーロッパ予選のグループGでは、6チーム中5位。プレーオフに進出できる2位とは勝ち点で7ポイント差を付けられており、やや厳しい状況であると言わざるを得ない。ちなみにユーロに出場した04当時のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは53位、最新のランキングは104位である(日本は21位)。

 ここで気になるのが、彼らのコンディション。今回の来日メンバー21名がプレーしているリーグは、ロシアが5名、アゼルバイジャンが2名、スイスとイングランドとギリシャが1名ずつ、残り11名は国内リーグ所属である。ラトビアのリーグは、日本と同じ春の開幕なので、今はオフシーズン。ロシアもアゼルバイジャンも、冬の中断期間にある。つまり21名中18名は、およそベストコンディションとは言い難い状態であることは容易に察しがつく。今回の来日メンバーについて、スタルコフス監督は「2名がけがで招集できなかったが、現時点でのベストメンバー」と語っていたが、果たしてどれだけ手応えのある相手なのか、それはふたを開けてみないと分からない。

スタメンを欧州組が占める歴史的な出来事

 コンディションに不安があるのは、日本も同じである。昨年の2月24日に行われたアイスランド戦もそうだったが、シーズン前の代表戦はどうにも低調な内容に終始する傾向が強い。「だったら、2月に代表戦をしなければいいのに!」と誰もが思うだろう。ところが2月をキャンセルしてしまうと、国内最初の代表戦は豊田スタジアムで行われる5月30日の試合(対戦相手は未定)まで待たなければならない。今年はW杯予選にコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)、東アジア選手権と、海外での試合や大会が目白押しで、キリンチャレンジカップは今回を含めて3試合しか決まっていない。さすがにこれでは、スポンサーにも申し訳が立たないという判断が働くのも当然と言えよう。

 国内組がコンディションに不安を抱える中、ザッケローニ監督はラトビア戦で積極的に欧州組を起用することを言明し、ヨーロッパ各国に散らばる選手の中から15名をリストアップ。けがで辞退したハーフナー・マイクを除く14名が試合会場の神戸(兵庫)に集結し、このうち10名がスターティングイレブンに名を連ねることとなった。国内組からは唯一、守備の要である今野泰幸がスタメン入り。FWの前田遼一とボランチの遠藤保仁はベンチスタートとなった。スタメン11名中10名が欧州組で占められたというのは、日本代表にとって、まさに歴史的な出来事。このラトビア戦は、人々の間で長く銘記されることになるかもしれない。

 今回のスタメンでもうひとつ注目されたのは、オフェンスの4人(岡崎慎司、本田圭佑、香川真司、清武弘嗣)の並びである。この顔ぶれなら、香川がトップ下で本田が1トップと見るのが自然であろう。ところが実際の布陣を見ると、1トップには岡崎が入り(岡田武史前監督時代以来の起用である)、トップ下の本田と左の香川はいつも通りの配置である。前日会見でザッケローニ監督は「本田はトップ下で起用したい。それがチームにとっても、彼自身にとってもメリットをもたらす」と語っていたが、その言葉通りのフォーメーションとなった。

 なお、遠藤に代わって長谷部誠とコンビを組んだのは、細貝萌。スタメン入りは、昨年5月23日のアゼルバイジャン戦以来のことで、この時は遠藤が日程的な問題から招集されなかったため出番が回ってきた。この試合で細貝はフル出場を果たし、それなりに存在感を示すことができたが、ラトビア戦ではそれ以上のアピールをしたいところだろう。かくして2万8067人の観客が見守る中、プレW杯イヤー最初の代表戦はキックオフを迎えた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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