“世界標準”見据えて感じた期待と戸惑い=3得点快勝も日本が露呈した遠藤依存

宇都宮徹壱

対照的な内容だった前半と後半

後半開始から出場した遠藤が格の違いを見せつけたことにより、ボランチの層について不安も覚えた 【Photo:Getty Images】

 序盤の日本は、各人のプレーがなかなかシンクロしない時間帯が続く。コンディション的には問題ない欧州組も、昨年11月14日のW杯予選のオマーン戦以来の実に2カ月ぶりとなる代表戦で、感覚を取り戻すのにいささか苦労していた。このうち、まだシーズンが再開していないロシアでプレーする本田は本調子からはほど遠く、久々の1トップ起用となった岡崎もポジショニングで苦労している様子。対するラトビアは、相手ボールへの寄せの早さと球際の強さが「いかにも欧州の中堅国」といった感じで、なかなか侮りがたい相手だ。

 日本が決定機を作ったのは、いずれも両サイドから。前半18分には清武の右からの素早いグラウンダーのパスに香川が直接狙うが、シュートは大きくバーを超える。31分には左サイドからのクロスに岡崎が頭で反応するも、こちらはGKがジャンプしてしっかりキャッチ。それでも徐々に日本はペースを引き寄せ、41分には今年最初のゴールが生まれる。清武がペナルティーエリア前で体を張ってボールキープ。セカンドボールを拾った長谷部が縦に流し、内田篤人がシュートを放つ。最後は岡崎が伸ばした右足に当たってコースが変わりゴールインとなった。前半は日本の1点リードで終了する。

 後半、ザッケローニ監督は清武と細貝に代えて、前田と遠藤を投入。遠藤はそのままボランチに入り、前田は1トップ、岡崎は右MFに回った。遠藤が入ったことで、中盤は見違えるほど落ち着きを取り戻し、パスの選択肢も一気に増える。その効果は後半15分に表れた。遠藤のパスを受けた本田が大きく左に展開、これを香川が相手DFを引きつけながら折り返し、走り込んできた本田が左足のシュートでネットを揺らす。さらにその1分後、前田とのワンツーから香川が縦へパスを出し、飛び込んできた岡崎がGKの動きを冷静に読んで左足で流し込み、ダメ押しの3点目を決めた。この日、通算31ゴール目を決めた岡崎は、原博実氏(日本サッカー協会技術委員長)が持つ国際Aマッチの得点記録3位(37ゴール)に、あと6ゴールと迫った。年内に抜き去る可能性は、十分にあるだろう。

 その後の日本ベンチは、酒井高徳、乾貴士、伊野波雅彦、大津祐樹を相次いでピッチに送り出す。とりわけ目立っていたのが、わずか28分のプレー時間ながらチーム最多7本のシュートを放った乾の積極性、そして代表初キャップを刻んだ大津の初々しさであろうか。すっかり意気消沈したラトビアに対し、その後も日本は相手を圧倒し続け、3−0の完勝で今年最初のゲームを終えた。

遠藤の“格の違い”がもたらす戸惑い

 前半のもたつきこそ気になったものの、岡崎の2ゴールと香川の2アシスト、そして本田の8カ月ぶりの代表ゴールに大津のデビューと、終わってみればいろいろとトピックスが目白押しの試合であった。もちろん、試合内容について注文を付けたいところは多々あるだろうが、シーズン開幕前であることと2カ月ぶりの代表戦であったことを勘案すれば、十分に納得のいくフレンドリーマッチであった。その意味で、決してベストな状態ではなかったものの、真剣に手合わせしてくれて、なおかつフェアに戦ってくれたラトビアの選手たちには心から感謝したい。

 そのラトビアを率いたスタルコフス監督。試合後の会見で「最も脅威に感じた日本のコンビネーションはどれか?」という質問に対し、「香川、長友、本田による左サイドのコンビネーション」と答えていたのが興味深かった。ザッケローニは一貫して、香川を左に、本田を中央に置くことにこだわってきたが、この試合に関しては香川の左は非常に効果的であった。確かに、乾が左に入って香川が中央にスライドした後半17分以降の攻撃も、なかなかに見応えはあったが、残念ながらゴールは生まれていない。本田が下がったあと、左からの崩しで乾や香川が得点を決めていれば、この試合の評価はまた違ったものになっていただろう。

 いずれにせよ、今の日本代表の得点源を支えているのが、両サイドの人材の豊富さと競争力に負うところが大きいのは、誰もが認めるところであろう。その一方で、有り余るタレントがひしめいている両サイドに比べて、ボランチの人材が極めて限られているのは、どうしたものか。この日、久々のスタメンとなった細貝は、前半のチーム状態が低調だったこともあり、やや気の毒な面があったのは否めない。それでも、遠藤が入ってからのチームの変わりようを見ると、やはり「格の違い」というものを感じずにはいられなかった。もっとも、今年はJ2で戦う33歳の遠藤が、来年のW杯本番までトップフォームでいられる保証がないのも事実。だからこそ、細貝なり高橋秀人なりが、もっと頼れる存在になってもらわないと困るのだが。

 先に触れたように、今年はW杯予選突破、さらにはコンフェデ杯をはじめとする“世界標準”に向けた戦いが目白押しである。このラトビア戦を起点として、13年の日本代表がどこまで進化を遂げていくのか、今年もしっかりと見届けながらレポートすることにしたい。そして年内最後の代表戦が終わるころには、来年のブラジルでの祭典が待ち遠しく思えるくらい、さらに強く魅力的な日本代表となっていることを、心から願う次第である。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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