切り札・福士でも勝てず…日本女子マラソンに突き付けられた課題

中尾義理

福士、スルリと逃げた優勝と世界選手権の切符

大阪国際女子マラソン、福士加代子は終盤に失速し、ゴール手前で2位に後退した 【写真は共同】

 冷たい風が一時、雪の破片を飛ばしてきた浪速路で、開花しかけたつぼみが急速にしぼんでいった。

 陸上の世界選手権(8月10日、モスクワで開幕)女子マラソン日本代表選考会を兼ねて行われた大阪国際女子マラソン。クライマックスを迎えた残り1キロで、先頭の福士加代子(ワコール)が、昨夏ロンドン五輪5位のタチアナ・ガメラシュミルコ(ウクライナ)につかまった。抜かされた後は無抵抗。つかみかけていた優勝も、世界選手権派遣標準記録(2時間23分59秒以内)突破もスルリと逃げた。国内で“トラックの女王”と称される福士に向けられる期待感の大きさの反動だろうか、「2時間24分21秒の自己最高記録で2位」では喝采を浴びることはできなかった。

日本が抱える課題の縮図のようなレース

 今大会の招待選手リストには、アテネ五輪優勝の野口みずき(シスメックス)、04年に2時間19分41秒をマークした渋井陽子(三井住友海上)、05年と07年の世界選手権女子マラソン代表の小崎まり(ノーリツ)、そして日本随一のスピードランナーの福士といったベテランの顔が並んでいた。北京五輪代表で26歳の中村友梨香(天満屋)がいたとはいえ、レースの関心は経験豊富な30代ランナー対決に集中。野口と中村は、体調不良やけがによって欠場し、スタートラインに立てなかったが、おなじみの顔に頼らなければならない状況は、日本女子マラソンが抱える課題の縮図のように思われた。

 そんな中、やはり福士に期待と興味が注がれた。08年大阪での初マラソンは30キロ以降フラフラになりながら19位と惨敗。昨年も30キロ手前から失速して9位。惨めな記憶が刻まれた大阪を捲土重来の舞台に選び、「三度目の正直」と位置づけて臨んだレースだった。

「三度目の正直」も勝ちきれない福士

 レースは序盤細かな上げ下げがあったものの、5キロ17分に設定されたペースメーカーが役割を果たし、ハーフを福士、渋井、小崎が1時間11分36秒で通過。4秒遅れでガメラシュミルコと25歳の渡邊裕子(エディオン)が続いたが、すぐに2人は福士らに追いつき、先頭集団が膨らんだ。
 25キロすぎに渋井と渡邊が後退。27キロすぎにはガメラシュミルコと小崎も離れた。30キロ地点でペースメーカー2人が役目を終えると、そこから先は福士にとって鬼門のゾーン。この時点でガメラシュミルコとの差は15秒あり、37キロ地点では27秒に広がったが、37キロからペースが鈍ると、それを察知したガメラシュミルコに追撃された。

 ワコールの永山忠幸監督は「最後の脚(の余力)が残っているかは不安材料としてありました。一人で行き切れればよかったのですが、逃げ切れる差ではありませんでした」と話す。30キロ地点を待たずに、1キロでも2キロでも手前からペースを上げていれば、あるいは逃げ切れる差をつくれていたかもしれない。福士は「(過去2回惨敗した)トラウマはありませんでした」と言うものの、永山監督は「30キロまでは慎重にいかざるを得なかった」と福士の深層心理に触れた。

 前回失速した反省から、福士はマラソンへのアプローチを見直した。まずは食事。福士のようなスピードランナーは食事制限をしてまで余分な体重をそぎ落とそうとしがちだ。それがスタミナ切れにつながったと分析。栄養指導の下、1日3食しっかり食べることも練習と位置づけた。

 走る練習ではスピード任せになることを控えた。ペース設定を抑え、じっくりと走り込んで脚づくりに専念した。
 しかし、40キロが近づくにつれて、別人のようにペースが鈍った。「前に行こうと思っている自分と、重たくなっている体」(福士)とのせめぎ合い。40キロからの2.195キロはガメラシュミルコより42秒も遅い。「スコンとやられて何もできませんでした。後半に耐えられるだけの何かが足りないんでしょうね。(それが何かは)わかりませんけれど」。勝ちきれなかった福士は自嘲気味に苦笑を浮かべるしかなかった。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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