切り札・福士でも勝てず…日本女子マラソンに突き付けられた課題

中尾義理

高校時代は無名、未知数の若手・渡邊が台頭

期待の高さを突破できない福士(写真は41キロ地点でガメラシュミルコにに抜かれる福士)。真の喝采は後半の詰めを突破した時だ 【写真は共同】

 3位に入ったのは渡邊で、4位は小崎。渋井は8位まで後退した。
 マラソン2度目の渡邊は初マラソンより3分24秒も早い2時間25分56秒。13.5キロから一旦は先頭集団から遅れたが、後半型のガメラシュミルコをマークして追い上げるという貴重な経験を積んだ。小崎を抜いて3位に浮上したのが39.8キロ地点。40キロ以降は福士より20秒早いタイムでカバーした。

 広島・西条農業高校出身で、実業団8年目。全国高校駅伝では1年生時1区42位、2年生時1区25位と目立たない存在だった。マラソン練習は最長30キロ。1本1本を丁寧にこなしたことが自信となり、遅れてからもしっかりと粘って、スパートも有効だった。

「世界選手権が懸かっていたので、一人でも前を抜いたら可能性はあると思って最後まであきらめませんでした。ここまで走れると思っていなかったので、とても満足しています」
 記録も順位も、渡邊は大きなステップを踏んだ。

 37歳の小崎は長男出産後の本格的なマラソン復帰。「今までの1年よりも、これからの1年の方がしっかり走れると思います。世界を目指す人を脅かす存在でありたい」と表舞台から引く気はまだない。

日本女子マラソンが脱皮する芽

 トラック種目のスピードや世界経験から測れる福士のポテンシャルの高さは誰もが認める。しかし、日本女子マラソンの切り札ともいえる福士でさえ、五輪入賞者に苦杯。レース後の会見で収穫を問われた福士は「昨年よりはペースが落ちなかった。それだけですね」と淡々と答えた。この日の結果で、マラソンで開花すればという期待の壁を突破したはいえない。
 突破するカギは後半の詰め。たとえ国際大会で先頭を快走していても、「あの選手は終盤ペースが落ちてくるから逆転できる」などと思われては悔しいではないか。

 それでも希望を探せば、福士は敗れたなりにもマラソンをつくり、渡邊は未知数の若手から可能性を感じさせる存在へと台頭した。日本女子マラソンが脱皮するチャンスの芽が失われたわけではない。

<了>

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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