失われつつある鹿島の伝統的な日常=なぜ名門クラブは低迷したのか

田中滋

味わったことがないプレッシャー

J1残留を決め喜ぶ鹿島の選手たち。終盤まで降格の危機にさらされた初めてのシーズンとなってしまった 【Getty Images】

 左コーナーに立った名古屋グランパスの田口泰士が、鋭いボールをニアサイドに蹴り込んだ。そこに走り込む田中マルクス闘莉王。2つのベクトルがピタリと合致する、そう思われた瞬間、背後から忍び寄った鹿島アントラーズの岩政大樹が闘莉王を押しのけるように跳び上がり、渾身のヘディングではじき返した。

 名古屋の最後のチャンスがついえたことを見届けた廣瀬格主審が、ホイッスルを吹き鳴らす。それを聞いた岩政がほえながらガッツポーズを繰り返し、新井場徹と曽ヶ端準はガッチリと肩を抱き合った。他会場の結果を知っていた昌子源が「残留決定」を知らせてまわると、アドレナリンが出続けていた選手にも柔和な表情が戻り、ベンチだけでなくピッチにも安堵(あんど)感が広まっていった。

「味わったことがないプレッシャーだった」

 試合後に大迫勇也が振り返ったように、つねに優勝争いに絡んできたこのクラブにとって、2012年のリーグ戦は初めてJ1残留を意識するシーズンとなってしまった。99年にもゼ・マリオ監督を途中解任する危機を味わっているが、このときはジーコを総監督に迎えたことで潮目が変わり、最後まで残留争いに巻き込まれることはなかった。ここまで苦しい思いをしたのは今回が初めてのケースと言えるだろう。それだけに「喜びよりもほっとした気持ちの方が強い」という岩政を筆頭に、前日までの重苦しい表情とは打って変わり、つき物が落ちたようなすっきりした笑顔を見せる選手たちが多かった。

最後まで続いた低空飛行

 今季、ここまで鹿島が苦戦することを予想した人は少ないだろう。野沢拓也、田代有三という3連覇を知る中心選手が移籍してしまったが、第一次黄金期の中心選手だったレジェンドであるジョルジーニョが監督として戻ってきてくれたことは、それを忘れさせるほどの期待感をもたらした。

 しかし、開幕5試合未勝利から始まり、1度も一けた順位を経験することがない低空飛行。第33節を終えた時点での最高順位は10位と、つねに黒星が先行し、最後まで安定した戦いをすることができずにここまで来てしまった。昨季も優勝争いに加わることができない寂しいシーズンを送ったが、今季はさらにそれを下回る結果だったのである。

 なぜ、今季の鹿島はリーグ戦で低迷したのか。その原因としてはさまざまな要素が絡み合う。まず、ジョルジーニョ監督自身が「僕の新しいやり方が浸透するのと、選手の特徴を把握するまでに時間がかかってしまった」と繰り返してきたように、新布陣が機能しなかった側面はあるだろう。長らくボックス型の4−4−2に慣れ親しんだ鹿島に、トップ下が存在するダイヤモンド型の新布陣を持ち込んだが、それに適した選手を保有しておらず、長所よりも短所を突かれる試合の方が多くなってしまった。さらには、不運な判定に泣かされる試合が多かったことも要因として挙げられるだろう。

継続できない気持ちを押し出すサッカー

 とはいえ、こうしたことで勢いを削がれた部分はあったかもしれないが、シーズンを通した低迷の主原因に結びつけてしまっては、名門クラブとしてはあまりにも情けない。実際、リーグ戦とは異なり、ヤマザキナビスコカップでは連覇を達成している。一発勝負のカップ戦では強さを発揮できたのだ。

 逆に言えば、それくらいプレッシャーがかかる試合でなければ、最高のパフォーマンスを出せないところに、今季の問題点が集約される。それは、名古屋戦後の選手から出てくるコメントでも明らかだった。

「しっかりやれば勝てるのは分かっていた」(本山雅志)

「プレッシャーがかかる試合の方が、結構うまくいくというのが、今年のチームの傾向だった」(岩政)

「自分たちはプロだから気持ちを毎試合入れなきゃいけないんだけど、今日の試合は全員で勝つという気持ちの入った良い試合だった」(本田拓也)

「今日勝てばほぼ決まるだろうと思っていましたし、全員がその気持ちを試合に出せて、結果につながったというのは良かったんじゃないかなって思います」(柴崎岳)

 気持ちを前面に押し出すサッカーをできたときは強い。が、それをどの試合でも継続できなかったところに、リーグ戦低迷の原因が隠されていた。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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