失われつつある鹿島の伝統的な日常=なぜ名門クラブは低迷したのか

田中滋

「鹿島の良いところが伝わっていかない」

黄金期を支えたジョルジーニョは低迷する鹿島を立て直すことができるのか 【写真:アフロスポーツ】

 かつて、鹿島の紅白戦は火の出るような激しさを持っていた。主力組には本田泰人、秋田豊、相馬直樹といった日本代表が、ズラリと顔をそろえていながらも、サブ組に入った小笠原満男、本山、中田浩二らが、おくすることなく必死の形相で食らいついていく。

「試合に出るためには、この選手たちを越えていかなければならなかった」と小笠原が振り返るように、紅白戦のメンバーに入るために1本のダッシュから手を抜かずに取り組み、紅白戦に出られるようになれば主力組に勝利するため全力でぶつかる。小笠原にしてみれば、その延長線上に、ベンチ入り、先発入りが待っていることを考えれば当然のこと。それが鹿島の伝統であり、日常の光景だった。

 その空気感はどのクラブにも存在するわけではない。鹿島OBが他クラブで監督をすると、まず乗り越えなければならないのがこの部分と聞く。1本のダッシュにどういう意味があるのか、そこに全力を傾けなければならない理由を、説明するところから始めなくてはならなかった。

 ところが、それがいまの鹿島でも薄れつつある。そのことが露呈したのは10月10日の天皇杯3回戦だった。この日の鹿島は主力組を温存して、中2日という強行日程となったガイナーレ鳥取を迎え撃ったが、出場した若手に足をつる選手が続出。延長戦の末になんとか勝利したものの、主力を温存するどころか、逆に負担をかける結果となってしまった。

 強化担当の吉岡宗重は天皇杯の鳥取戦後、若手選手を厳しく叱咤したという。

「確かに、試合勘の問題はあったと思います。でも、(小笠原)満男やモト(本山)が1本のダッシュにも手を抜かずに取り組んでいるのと同じように若手がやっているかと言えば、僕の目にはそう見えなかった。『吉岡、うるせえな』、と思われてもいい。このままだと鹿島の良いところが伝わっていかない」

異端となった柴崎の取り組み方

 若手選手の試合経験の少なさは、Jリーグ全体に大きな問題として横たわる。だが、鹿島がほかの追随を許さないタイトル数を有してきたということは、ほかのクラブにはない良さがあったからだ。

 鹿島は伝統的に、高卒の選手を鍛え上げ戦力を充実させてきた。年長の選手がどういう日常を過ごしているかを見ることで、若い選手たちは意識を高く磨き上げ、チーム内で激しく競争することがチーム力を支えてきたのである。

 とはいえ、その競争力を自然発生的に生むためには、質の高い選手がある程度そろうことが必要だ。いまいるレギュラーを追い越すことに本気で取り組むためには、それだけの自信と気迫を兼ね備えていないと難しい。

「チーム数が増えて質の高い選手が分散するようになった。そろえようと思っても難しい」

 強化責任者である鈴木満常務取締役も時代が変わったことを認めていた。79年組が日本を代表する選手たちに育ったときのように、そうした意識も技術も高い選手を多数そろえることは困難を極めている。

 それでも鹿島のスカウトは、大迫、柴崎、山村和也と、このオフには植田直通(大津高校)と、その年代を代表する選手を獲得し続けてきた。だが、それより前に獲得した内田篤人(現シャルケ04)はすでにチームを離れており、柴崎らも同じ道をたどることが予想される。良い選手であればあるほど鹿島を離れる可能性が高く、なかなか選手はそろっていかない。それでも、同年代の選手が柴崎に追随していけば話は別なのだが、「岳は特別」と別格扱いする空気が流れてしまっている。かつては柴崎のような取り組み方が普通だったはずが、いまでは異端となってしまったのだ。

大きな岐路を迎えている名門

 自然発生的な競争に期待するのが難しいのであれば、外部からの刺激に頼るしかない。しかし、J1残留を決めたことで来季も続投することが濃厚となったジョルジーニョは、選手との距離感が非常に近く、日々の練習に全力を尽くすのはプロであれば当然のことと考えている。06年、監督に就任したパウロ・アウトゥオリが厳格な指導と、ドラスティックな選手起用でチームの雰囲気を一新させたが、同じような手法を2年目のジョルジーニョがとるとは考えづらい。それは彼の手腕の問題というよりも、監督の期待に若手選手が応え切れていない状態と言える。

 昨オフの動きを振り返ってみると、一昨年が4位、昨年が6位と順位が下降してきたなかで、主力を放出した代わりに獲得した即戦力がジュニーニョのみとあっては、強化部の見込みが甘かったことは事実だ。しかし、より長期的な視野に立つと、いままでのように質の高い選手をそろえ、鍛え上げ、強さを発揮するというやり方が通用しなくなってきたという、大きな問題が透けて見えてくる。

 ナビスコカップを連覇したことで、「さすが鹿島」や「勝負強い」という決まり文句が並んだが、それをカップ戦という“非日常”でしか発揮できなかったことは、百戦錬磨のベテラン選手たちにも限界が近づいていることを示す。今季は天皇杯も獲得するチャンスが残されているが、それも非日常であることに変わりはない。

 チーム内の質を保つには、西大伍、本田拓らを獲得した2011年のような大型補強を行うか、はたまた99年のように中堅選手を大量放出して次世代を担う若手に自覚と奮起を促すなど、いくつかの方法が考えられるが、いずれにしてもなにがしかの打開策が必要な状況であることは確かだ。

 再びリーグ王座を奪還できるチームとなるか、それともこのまま低迷期を迎えてしまうのか。Jリーグ20年の歴史で輝かしい実績を残してきた名門クラブが、大きな岐路に立たされている。

<了>

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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