“フットサル選手”カズが見せた可能性=期待されるピッチ内外での影響力

北健一郎

代々木を埋めた“カズ効果”

フットサル選手として堂々とプレーを披露したカズ(右) 【写真は共同】

 平日の夜7時キックオフという集客には不向きな時間帯にも関わらず、前売りチケットは完売し、代々木第一体育館には8236人の観客が集まった。17時の開場前から入り口には長蛇の列ができ、限定販売されたカズTシャツは1時間20分で完売した。

 報道陣はペン記者が約200人、カメラマンが約50人。これは通常のフットサル代表戦とは比べ物にならない数だ。試合前の集合写真に多くのカメラマンが群がってフラッシュをたく光景は、サッカーのA代表を思わせるほどだった。

 試合前には「カズがフットサルに挑戦」という話題がテレビのニュースなどで取り上げられ、スポーツ新聞では連日のように「カズ」、「フットサル」という言葉が躍った。これほどまでフットサルが話題になったのは、この競技が始まって以来のことだ。

“カズ効果”はすでに十分すぎるほど出ていた。だが、それはメディアへの露出などピッチ外での話である。ピッチ内での“カズ効果”は、このデビュー戦で問われることになる。日本サッカー界のキングは、フットサルでも実力を示すのか、それとも客寄せパンダで終わるのか……。期待と不安が交錯する中、ワールドカップ(W杯)の前哨戦とも言える世界王者・ブラジルとの親善試合が始まった。

「セカンドセット」の一員として出場

 カズはベンチスタート。試合開始直後からストレッチで体を温めながら、ピッチの様子を見守った。すると3分、カズの目の前で日本のゴールが生まれる。

 左サイド、20歳の逸見勝利ラファエル(名古屋オーシャンズ)が1対1でブラジル選手を鮮やかにかわすと、強烈なトーキックを突き刺したのだ。日本にとっては幸先の良い立ち上がりとなった。1−0でリードしてから1分後、カズがフットサル日本代表としてピッチに初めて入った。

 フットサルでは相性の良い選手同士や、攻撃的もしくは守備的な選手同士を組み合わせてフィールドプレーヤー(FP)4人を一つのセットにして戦うのが一般的だ。交代は何度でも、何人でも自由に出入りできるため、セットごとの4人同時交代が行なわれることもある。カズは森岡薫(名古屋オーシャンズ)、村上哲哉(シュライカー大阪)、北原亘(名古屋オーシャンズ)とともに、2番手で出場する「セカンドセット」の一員として出場した。

 正直、意外だった。ミゲル・ロドリゴ監督がカズを起用するなら、セットプレーでのワンポイントや、得点が欲しい時間帯に限られると思っていたからだ。しかし、ミゲル監督としてはカズが実戦でどれだけできるのかをある程度時間をかけて試したかったのだろう。スタンドの「カズを見たい」という期待感を感じて、それを追い風にしたいという狙いもあったのかもしれない。

 観客の視線を一身に受けたカズは、すぐさま期待に応えてみせる。左サイドでブラジル選手に囲まれながらも、左足でうまく浮かして中の森岡にパス。森岡とのワンツーから左サイドを抜け出して、シュートを放ったのだ。枠から大きく外れたため、シュート数にはカウントされなかったが、カズのプレーには拍手喝采(さい)が起こった。

「フットサルの難しいところで、いつ入るか分からないからアップの仕方がすごく難しい。ワンツーで抜けるところも、(フィジカルが)上がっていたらもっといい感じにできた。それでも、ああいう形でいけたのは良かったですよ。入り方としてはすごく良かったと思います」(カズ)

 森岡に出した、ボールを軽くすくって相手の間を浮かせて通すパスは、1月のFリーグ挑戦時にも見せたカズの得意なプレーである。フットサル経験は少ないものの、狭いスペースを活用するためのテクニックが自然と出るところが、ミゲル・ロドリゴ監督が「初めて見たときに“フットサルができる選手”だなと感じた」とコメントした理由だ。

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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