“フットサル選手”カズが見せた可能性=期待されるピッチ内外での影響力

北健一郎

チームメイトも目を見張る成長ぶり

ベンチでも積極的に声をかけチームにエネルギーを与えたカズ(中央) 【Getty Images】

 約2分間プレーしたカズはいったんベンチに下がって休んでから、12分に再びピッチへ。このときのセットは北原、小曽戸允哉(バサジィ大分)、高橋健介(バルドラール浦安)。最初のセットでは、ポストプレーに長けたピヴォ(トップ)の森岡がいたため、カズは主にアラ(サイド)としてプレー。しかし、2回目のセットのメンバーの中では、カズが最も攻撃的な選手だったため、ピヴォとしてのプレーが求められた。

 そして13分、“ピヴォ・カズ”がゴールを呼び込む。左サイドで浮き球のボールを胸でコントロールしてから、右サイドの小曽戸に預ける。カズが下がったことで空けたスペースに走り込んだ高橋に小曽戸がパス。高橋がワンタッチで裏に出したボールを、北原がGKと入れ替わるようにコントロールし、無人のゴールに流し込んだ。

 2点目のゴールは、人が動くことでスペースを作り、そこに新しい人が入っていくという、フットサルらしい流動性が感じられるシーンだった。もしも、カズが“サッカー選手”のままの動きであれば、このようなゴールは生まれなかっただろう。ゴールを決めた北原のコメントが興味深い。

「本音でいうと、正直驚いている点は多いですね。サッカーからフットサルに変わって、いろいろな動きを覚えなきゃいけなかったり、違うところは多々あると思うんですね。ただ、今日の試合を見ても分かるように、相手がブラジルであろうと堂々とフットサルをプレーしている。成長度合いとしては目を見張るものがあります。こういうことを言っていいのか分からないですけど……、いちフットサル選手になっているのかなと思います」

 W杯の約1カ月前にチームに合流してから、このブラジル戦にたどり着くまでチームと一緒にトレーニングを行ったのは10日間程度しかない。その中で、フットサル選手としての基本となる動きを覚えながら、自分の特長を出せる選手が果たして日本に何人いるだろうか。

「死のグループ」に入った日本だが

 日本は2−1でリードして試合を折り返す。後半は「日本に負けるわけにはいかない」というブラジルがプライドを見せて猛攻を仕掛け、27本のシュートを浴びせた。そのうち枠内シュートは24本にもおよんだ。日本は24分、31分と失点を喫して2−3と一時は逆転を許したが、3失点目の直後に「日本の武器」(ミゲル・ロドリゴ監督)であるセットプレーから小曽戸が決めて、3−3の同点に追いつく。

 カズは、後半は2−2の状況の中、3分間出場したのみで、試合が緊迫した終盤の時間帯はベンチから様子を見守った。

「もちろん、出たいなと言う気持ちは常にありますけど、コートの外で見ているのも経験ですし。それも世界王者のブラジルを見られるというのは(大きい)。試合に出てやるのが一番良い経験になりますけど、外からも見ることも大事なことですから」(カズ)

 カズ効果はベンチでも発揮されていた。交代して戻ってきた選手には、ポンと背中をたたいて「ナイスプレー」と声をかけ、ピッチに出て行く選手とはハイタッチを交わす。ブラジル相手に、満員の観衆の前で戦うというプレッシャーを受けていた選手たちにとって、これはかなりのエネルギーになっていたのは間違いない。

 そして、これはミゲル・ロドリゴ監督がカズに求めていた役割でもある。

 カズがベンチにいて、チームを鼓舞することで、強い相手にもひるまず、苦しい時間帯でも頑張れる……。実際に1月のFリーグ参戦時は、カズが入ったエスポラーダ北海道は、それまで9試合勝ちなしだったが、接戦をモノにして勝ち点3をもぎ取っている。本番のW杯では、今日以上に苦しい試合が予想される。カズ自身の出番は少なかったとしても、果たす役割はより大きなものになるだろう。

「みんなの自信になると思うし、キャプテンの木暮(賢一郎)とも話しました。勝ちたかったけど、ブラジルとは引き分けたこともなかったと。いい経験、いい自信にするために、次のウクライナ戦にしっかりとした形で臨んで、本番に向かって行きたい」

 フットサルW杯で日本は、ブラジル、ポルトガル、リビアという「死のグループ」に入った。日本がグループステージを突破する確率は率直にいって厳しい。しかし、日本の選手たちは「フットサルに1カ月で順応する」という誰もが不可能と思ったハードルをクリアしつつある45歳の背中を見ている。そして分かっているはずだ。不可能なことはない、と……。

<了>

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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