王者・内村も驚く観客の熱狂 高まる体操人気に「このまま続けて」

椎名桂子

徹夜組、入り待ち……内村に沸くファンたち

内村は、2位の田中佑に2点以上の大差をつけて優勝した 【坂本清】

 2012年9月17日、神奈川・相模原市立総合体育館の周辺は、一種異様な雰囲気に包まれていた。ロンドン五輪の体操競技個人総合で、金メダルを獲得した内村航平(KONAMI)の凱旋試合となる「全日本社会人体操競技選手権大会」が行われるからだ。内村が出場する男子1部2班の競技開始時間は14時30分とあって、昼前には会場入りする内村を一目見ようといういわゆる「入り待ち」のファンも、関係者入口付近に集まっていた。

 なにしろ、収容人数1400人という体育館なので、前売り券は即日完売。200枚用意したという当日券を買うために前日からの徹夜組もいたという。日本のお家芸とも言われ、常に世界でも戦えるレベルを維持してきた男子体操だが、今回の人気はただごとではない。
 
 13時になり、内村が試合会場に姿を現すと、満場の観客席から拍手が起こった。“ただ歩いているだけで”である。内村自身、試合終了後の記者会見で「入ってきただけで拍手が起きたので、何を求められているのか分からなくて……」と言うように戸惑いを隠せない様子だった。優勝を懸けた世界の大舞台でも動じないように見える内村だが、今までに経験したことのない「一挙手一投足に沸くファン」というものには、いささか動揺しているように見えた。
 公式練習中、内村がゆかのフロアを片足跳びで斜めに横断しただけでも拍手、伸身ひねりの連続を確認して着地をぴたりと決めれば、また大きな拍手が起きる。このときはさすがに内村も苦笑いを浮かべ、やりにくそうな表情を浮かべていた。

内村が優勝 あん馬も完璧な演技

練習中も拍手が起こる内村の人気ぶり。しっかりと結果も残した 【坂本清】

 そんな熱い空気の中で行われた大会で、内村は中盤の倒立と着地でやや乱れのあったつり輪以外の5種目できっちり15点台をマーク。総合得点92.400点は、2位の田中佑典(KONAMI)に2.050点差をつけての完勝だった。ロンドン五輪での演技に比べると、いくらか価値点を下げて無難にまとめた面はあったようだが、内村は五輪の疲れもまだ抜けきらず、右肩にも痛みを抱えているというコンディションの中、観客の期待に十分応える演技を見せた。

 中でも、五輪のときによもやの着地の失敗で、日本中を凍りつかせたあん馬では、完璧な演技を披露して15.400点をマーク。ロンドンから帰国してからの練習でも、苦戦していたという降り技もぴたりと決め、着地した直後に「やった!」と快哉をあげた。団体とゆかで2つの銀、個人総合では金と3つのメダルを日本に持ち帰ってきた内村だが、ロンドンでの戦いが、決して楽なものではなかったことを日本中が知っているだけに、この日のあん馬での完璧な演技、そして晴れやかな笑顔は会場につめかけたファンにとって最高のプレゼントだったに違いない。

1/2ページ

著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント