王者・内村も驚く観客の熱狂 高まる体操人気に「このまま続けて」

椎名桂子

「人気が高まるのはうれしい」

北京五輪後は、注目されることに戸惑いもあった内村だが、今は応援される意味を感じているようだ 【坂本清】

 大会終了後の記者会見で、現在の体操人気について聞かれた内村は、「こんなに練習中まで応援されたのは初めての経験。体操の人気が高まるのはうれしいので、このまま続けて応援してもらえればと思います」と答え、同じ質問をされた田中和仁(徳洲会体操クラブ)は、「本当に試合なのかな? という雰囲気で。どちらかというと演技会のようでしたね。地元クラブの子どもたちが競技フロア面で観戦していたりするのも、試合としては珍しいですが、いい機会だなと思いました。こういうことをきっかけにもっと体操が普及するといいと思います」と答えた。

 また、田中佑は、「たくさんのお客さんが来てくれてうれしかったんですが、今日は立見の人も目立ったので、チケットを買うために長い時間並んだり、立見になるようなことのないように、もっと大きな体育館で大会をやってもらうといいと思います」と語り、笑いを誘った。

ロンドン五輪を経て「大人になりました」

 その後、表彰式前に記者達に囲まれて、内村は「五輪後のパレードとか、行事などは練習時間がとれなくなるので、本当はあまり好きじゃない」と本音をこぼした。しかし、「でも、こんなにたくさんの人達が応援してくれていたんだと感じることが多くて、嫌だなんて言えないな、と思うようになりました」と殊勝な言葉も出た。

 北京五輪のときは、まだ19歳だった内村。個人総合銀メダル獲得で急に注目され始めたことに対して、4年前は「なんで?」という態度を見せたこともあった。「自分はアスリートであってタレントではない」という思いもあったのだろう。もちろん、その思いは今も同じだろうが、自分の感情だけで動くわけにはいかないことも、すでに彼は学んだのだ。
 表彰式に向かおうとする内村に、記者の中から、「大人になりましたね」と声がかかると、「大人になりました」と笑顔で応えた。体操選手としての限界もまだ見えない内村だが、ロンドン五輪を経て、多くの人に愛され、応援されるということの意味も改めて感じているように見えた。

 今大会を見る限り、内村航平のアスリートしてのさらなる飛躍を期待するとともに、内村を中核にして、体操競技の人気がますます高まっていくことも期待できそうだ。

 五輪代表選手の多くが出場する次の試合は、11月2日〜4日に行われる第66回全日本体操競技団体・種目別選手権大会。会場となる代々木第一体育館は、収容人数1万3245人と十分なキャパシティーを持っている。内村をはじめとする世界トップレベルの選手たちの演技を見に足を運ぶ人で、この会場が埋まることを祈りたい。

<了>

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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