史上初の「兄弟対決」が示した明るい未来=柏レイソルのクラブコンセプト

鈴木潤

アカデミーの歩み

天皇杯で史上初の兄弟対決が実現。クラブの未来が明るい方向に進んでいることを示している 【写真は共同】

 柏レイソルと、その下部組織の柏レイソルU−18が2回戦で対戦するという、長き歴史を誇る天皇杯の中でも、過去に前例を見ないカードが実現した。結果は3−0でトップチームがプロの貫録を見せつけ、順当勝ちを収めたが、キャプテンの大谷秀和は「ユース出身の僕からしてもうれしい。柏の育成がうまくいっているということだと思う」と、地域の予選を勝ち上がった後輩たちの快挙と、この“兄弟対決”を大いに喜んだ。ゴール裏のスタンドには『柏の育成、俺たちの宝』と書かれた横断幕も掲示されており、会場に詰めかけたサポーターも、おそらくクラブの明るい未来を感じながら、この“兄弟対決”を堪能したことだろう。

 現在、柏アカデミーでは一貫した哲学とコンセプトのもとに指導が行われ、戦術やトレーニングの難易度に差こそあれ、U−12からU−18までが同じスタイルのサッカーを展開している。しかもU−18は、この夏の日本クラブユース選手権で初優勝を成し遂げ、U−12は全日本少年サッカー大会で2年連続決勝戦に進出、さらに酒井宏樹(ハノーファー96)をはじめ、毎年トップチームにプロ選手を輩出するなど、近年の柏アカデミーの功績は目覚ましいものがある。

 もともと柏の育成の歴史は古く、1969年、前身の日立サッカー部時代に日本サッカー協会公認としては初となるサッカースクールを開催したことがその始まりだった。年々その規模を拡大すると、80年代には育成を主眼に置いた『日立サッカースクール柏』が発足する。これがJリーグ誕生後に『柏レイソルユース』へ名称を改め、現在の『柏レイソルアカデミー』へと発展を遂げるのである。

 酒井直樹(現柏U−15監督)、明神智和(ガンバ大阪)といった日本代表クラスや、現在トップチームで中核を担う大谷、近藤直也を生んだ。ただし、すでに育成力に定評があったとはいえ、それまでは各カテゴリーの各指導者が、それぞれの指導方針や理念のもとに育成を行い、クラブとしての育成哲学や、共通したコンセプトが具体的に存在したわけではなかった。

黄金世代が作った華やかな功績

 03年、現在強化部長を務める吉田達磨氏がアカデミーコーチに就任したのを機に、柏の育成が大きく変わり始める。吉田氏はU−15のコーチを務め、主に当時の中学1年生の指導を受け持った。その彼らこそが酒井宏、工藤壮人、指宿洋史(KASエウペン)、仙石廉(ファジアーノ岡山)、武富孝介(ロアッソ熊本)、比嘉厚平(モンテディオ山形)、山崎正登(FC岐阜)、畑田真輝(ヴァンフォーレ甲府)、島川俊郎(ブラウブリッツ秋田)ら、後に柏U−18の“黄金世代”と呼ばれるメンバーたちである。「攻撃的なボールポゼッション」は、今では柏アカデミーの代名詞となっているが、それは吉田氏が、彼らにそのスタイルを浸透させ、具現化させたことに端を発している。

 選手たちが将来プロサッカー選手に上り詰めるため、そして海外で通用する選手になるためには今何が必要なのか。例えば止める・蹴るという基本技術はもちろんのこと、ボールの置きどころ、ポジショニングの重要性、あるいは自分に付くマークが厳しい時には、いかに予備動作をいれてマーカーを外すかなど、そういったさまざまな要素を踏まえた時に、結果的に自分たちが主導権を握るポゼッションサッカーこそ、もっとも適したスタイルという結論に達したのだろう。

 酒井宏はすでに中学生の時点でディフェンスラインの裏へ出ていくタイミングと、スペースに入ってくる人にクロスを合わせる独特の感覚を持ち合わせていた。吉田氏は、その酒井宏の天性の才能には手を加えず、主に指導したのはポジショニングだったという。U−18時代までは、その指示をなかなか消化し切れず、酒井宏も戦術面ではかなり頭を悩ませた時期もあったようだが、昨年柏のトップチームでレギュラーポジションをつかみ取り、大ブレークした際には「達磨さんの指導が、今に生きている」と恩師の指導を実感している様子だった。

 この酒井宏世代の柏U−18は、08年日本クラブユース選手権準優勝のほか、MIC国際大会、ビジャレアル国際大会といった海外の大会でも3位に輝くなど好成績を収めた。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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