史上初の「兄弟対決」が示した明るい未来=柏レイソルのクラブコンセプト

鈴木潤

芯となる方向性の浸透

結果は3−0でトップチームの勝利。しかし、U−18の選手たちにとっては自信を深める一戦にもなった 【写真は共同】

 とりわけ注目を浴びたのが、パスをつなぐそのスタイルだった。バルセロナやスペイン代表の影響もあり、今でこそポゼッションを志向する育成年代のクラブが急増したが、「達磨のやろうとしていたことは早すぎたのかもしれない」と下平隆宏U−18監督が話すように、前線にボールを蹴り、それをひた向きに追いかける姿を見慣れた人たちにとっては、かたくなにポゼッションを貫き通し、絶対にボールを失わない柏U−18のサッカーは異様に映った。「高校生らしくない」、「バックパスが多い」という批判も決して少なくはなかった。

 一方で、このサッカーに賛同したのが柏アカデミーの面々である。U−15やU−12の後輩選手たちは、鮮やかにパスをつなぐU−18のポゼッションスタイルにあこがれを抱き、「僕たちもああいうサッカーをやってみたい」という声が上がった。さらに彼らを指導する下平、酒井直、渡辺毅、根引謙介といった元柏の主力選手にして、現在アカデミーのコーチを務める者たちも、クラブの将来を見据え、誰が言い出したわけでもなく、U−18のサッカーを柏アカデミー全体のスタイルにしようという共通の考えを皆が持ち始めた。監督やカテゴリーが変わる度に指導方針や戦術を変えるのではなく、バルセロナやアヤックスといった育成力に長けた欧州クラブのように、柏はアカデミー全体が一貫したコンセプトを持ち、そのもとに育成を進めていく方向性が定まっていったのだ。

有望な才能が続々と育ってきている

 そして、そのアカデミー全体が一貫したコンセプトを持った結果は顕著に表れ始めている。酒井宏はドイツへ渡り、日本代表にも名を連ねた。工藤と、1つ年下の茨田陽生もトップチームで活躍し、昨年のJ1初制覇に大きく貢献した。それ以降もU−19日本代表の山中亮輔、秋野央樹、中村航輔と、有望な才能が続々と育ってきている。この好選手輩出の循環を自然の流れとして、柏アカデミーはさらなる活性化を目指しているが、今回の天皇杯で実現した史上初の“兄弟対決”は、そのクラブの方向性が間違ってはいないという証明にもなったことだろう。

 大谷は「僕らがユースのころとは比べ物にならないほどレベルが高い。僕らの時代はトップと公式戦をするなんて考えられなかった」と後輩たちの好プレーと、ここまで勝ち上がってきたことを称賛した。大谷と10歳違いのU−18のキャプテン秋野は、0−3という完敗にも「2人、3人目の動きで崩していくところは通用する部分もあった」と、トップチームと対峙(たいじ)して自分たちのポゼッションスタイルに自信を深めた。

 長期的視野を見据えた育成は、必ずやクラブの未来につながる。そして柏は、成功例として徐々にだが結果を残しつつある。秋野がトップチームの主力でプレーする10年後、柏は果たしてどう発展を遂げているのだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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